2011年6月9日



アメリカ合衆国海洋大気局 (NOAA) 水産増養殖政策 1

 
※この和訳版は、独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所がそのホームページに
掲載するために翻訳したもので、アメリカ合衆国商務省海洋大気局の公式版ではありません。


目的

 この政策の目的は、NOAAの多様な管理任務と広範な社会的・経済的目標に基づいて、海洋における持続可能な増養殖の発展を進めることである。この目的を達成するために、NOAAは増養殖に関する管理のための決定を下す際には、環境、社会、経済上の検討結果を統合することが求められる。この政策は、健全で生産的な海洋や沿岸域の生態系を維持し、特定の海域を保護し、乱獲された資源を再建し、絶滅危惧種を復活させ、海洋と沿岸域の生息環境を復活・保護し、海洋環境の競合する利用のバランスをとり、沿岸集落における雇用とビジネスチャンスを創出し、安全で持続可能な水産食品の生産を可能にするために、NOAAが行う取り組みの中で増養殖が重要な構成要素であることを再確認している。


政策に関する声明

 本政策では、「増養殖」とは、漁業、遊漁(リクリェーション)、あるいは公共の目的のために、水生生物の増殖や養殖を行うことと定義する。この定義によれば、以下の4つの目的のために行われる魚類、介類、植物、藻類、その他水生生物2すべての認可を受けた生産が含まれることとなる。1)食用やその他の商品生産、2)漁業やリクリェーションのための資源の補充、3)種の回復と保存計画の下で絶滅危惧・危急種と位置付けられている種個体群の再生、4)海洋および五大湖における水生生物の生息環境の回復および保全。

 健全な海洋、活力ある沿岸域集落・経済をめざす海洋管理任務および戦略的な到達目標についてのNOAAの政策は以下のとおりである:

  1. 持続可能な増養殖の発展を奨励、育成する。このことは国内の仕事、生産物、公共サービスを提供し、健全で生産力があり、かつ回復力のある海洋生態系と調和するものであり、海洋環境のいろいろな利用と共存でき、我が国の海洋、沿岸域や五大湖の管理に関する国の政策(国家海洋政策)3と矛盾しない。
  2. 政府機関の増養殖に関する決定が、野生種や、健全で生産力があり、回復力のある沿岸域や海洋の生態系の保護を保証するよう配慮する。これには影響を受けやすい海洋域を保護することも含まれる。
  3. 大学や連邦機関の協力者と共同して持続可能な増養殖に関する科学的な知見を増やす。
  4. 最も有益な科学情報に基づいた、タイムリーで偏りのない増養殖管理に関する決定を下す。
  5. 合衆国の沿岸域における生態系、地域集落、水産物消費者、産業、そして経済にとり有益な増養殖技術の革新と投資を支援する。
  6. 持続可能な増養殖の実施に対する社会の理解を促進させる。即ち、関連する環境、社会、経済上の課題と得られる利益について、さらにまた、持続可能な増養殖を支えるために提供すべきNOAAのサービスについての理解を。
  7. 増養殖共同小委員会4や他の機会を通じて連邦の協力者と仕事をし、合衆国における増養殖業が発展する上で直面する課題解決に必要な対象資源の状態や専門的知識を提供する。
  8. 国際的に仕事をし、世界における増養殖の最良の実践から学び、科学に基づいた持続可能な増養殖の実践やシステムが適用されるよう努力する。
  9. 商業上の優先権に加えて、連邦、地方、州、地域、種族などが有する海面養殖場の配置や管理に関する優先権を調和・融合させる。そして養殖業の展開が、他分野の現存し可能性のある海洋利用との間で起こす可能性のある争いを減少させるように検討されることを保証する。

政策にとっての基礎

 NOAAは、公益業務、科学、環境管理に関する責務に基づき、海洋の増養殖問題に関する規制、研究、研究成果の発信(outreach)、国際的な活動に関する長い歴史を持っている。1980年の国家増養殖法は連邦のすべての部局に適用されるものであるが、それには「合衆国において、増養殖の発展を促進することは、国民的関心事であり、国の政策である。」と述べられている。NOAAの増養殖に関する活動の法的根拠は、マグヌッソン−スチーブンス漁業保護管理法や海産ほ乳類保護法、絶滅危惧種法、沿岸域管理法、国家海洋鳥獣保護法、そして、魚類と野生生物の調和法である。国家環境政策法を加えてこれらの法律の下、NOAAは、漁業管理計画、鳥獣保護管理計画、実行許可、適切な施設配置、さらには連邦、州政府、地方の段階での種々の管理部局との協議の進展をはかることで、計画中あるいは既配置の増養殖施設が環境へ与えうる負のインパクトを検討、防止、緩和させることに責任を負っている。国家海洋基金大学計画法やサルトンストール−ケネデイ法、遡河魚類保全法、管轄権の異なる海域にまたがる漁業に関する法律(the Interjurisdictional Fisheries Act)、商取引海洋法、そして、農業流通法などを含む他の法律は、NOAAが、公的・私的双方の増養殖分野に対して助力する権限を与えている。さらに、海洋と人の健全法では、増養殖に関する研究が要請されている。

 NOAAは、増養殖対象種によってはマグヌッソン−スチーブンス漁業保護管理法(マグヌッソン−スチーブンス法)に基づき、保全及び管理が必要な種に関する漁業管理計画によって、排他的経済水域の中での取り締まり活動を行うことができる。さらに、鳥獣保護区内、あるいは保護区に影響を及ぼす恐れのある区域内での増養殖活動については国家海洋鳥獣保護法(NMSA)に基づく取り締まり活動を行うことも出来る。NOAAは、該当する州政府との公式な協定書によって制限された州管轄海域を除いて、州と連邦それぞれの管轄する海域における保護区内の増養殖に対して直接調整を行う役割を有している。また、絶滅危惧種法や海産ほ乳類保護法、マグヌッソン−スチーブンス漁業保護管理法の重要魚類生息地条項、国家環境政策法および他の法律などの権限に基づいて、他の連邦政府の許認可部局との調整を行う。NOAAは沿岸域管理法に基づき、沿岸域で許容できる用途を特定している州の沿岸管理計画を審査、承認する。さらに、これらの計画と連邦内の一貫性を監督する5

 本政策を明らかにする上で、NOAAは、増養殖およびその影響についての科学の現状に関する省庁の組織だった知見を利用して、過去のNOAAと商務省の増養殖政策と計画書の妥当性を評価し、現在と将来の明瞭な課題と可能性を検討した。さらにNOAAは、2010年4月から5月の第1次パブリックコメント期間とこの間7回にわたって開催された公聴会を通じ、また2011年2月に発表されたこの政策の公開草案の60日間のパブリックコメントの期間を通じて得られた国民の意見に配慮した6。この政策は、NOAAの次世代戦略計画におけるいくつかの目標と提携しており、水産食品における安全と持続性に対するNOAAの戦略目標の最も重要な構成要素となっている7

 本政策はまた、国家海洋政策や沿岸と海洋の空間計画(CMSP)のフレームワーク(枠組み)にも紹介されている8。国家海洋政策の中に見られるたくさんの主題―例えば、健全で多様な生態系の保護、維持と回復;海洋の持続可能な利用の支援;科学的理解の深化とよりよい決定を下すための知識の応用―が、この文書の中には繰り返し述べられている。本政策はまた、沿岸と海洋の空間計画(CMSP)における国家的目標を反映しており、CMSPが進展する中で増養殖が適切に考慮されるように準備する。商務省の重要な部局であり、プログラムに添った増養殖に関する責任を担うNOAAは、広範囲にわたる商務省増養殖政策を補完するものとして本政策を明らかにした。

背景

 合衆国で消費する海産食品のほぼ84%は輸入に依存しており9、その約半分は養殖業からのものである。2009年には、養殖による生産物が世界中で消費されるすべての海産食品の半分以上を供給するところにまで達した10。しかし、合衆国で消費される海産食品の5%しか、国内の養殖業は供給してない11。人々や消費者の水産食品の健康上への有効性の認識がさらに増加する結果、水産食品に対する合衆国と世界の要求は引き続き成長すると考えられる。連邦政府が出した最新の「アメリカ人のための食生活指針」では、アメリカ人に現在の水産物消費の2倍以上の摂取を推奨している12。天然資源は努力量を増やしても増加する要求を賄えないと見積もられており、供給面での将来の増加は外国の増養殖や国内の増養殖生産の増加、そして幾分かはその両方の組み合わせに頼らざるを得ない。

 現存する国内の海産増養殖業は主に介類養殖で成り立っているが、沿岸域の魚類や藻類生産も含まれる。さらに商業上、娯楽上、また絶滅が危惧されるなど重要な種の個体群補給のため、また生息域の再生(例えば、カキ礁)のために用いられる魚介類の種苗生産も含まれる。海洋の増養殖において、将来実用化が期待される先端技術には、陸上での閉鎖循環システム、バイオ燃料および食品以外の製品生産のための藻類生産技術、異なるタイプの増養殖を統合するシステムや他分野の利用と養殖を組み合わせるシステム、外洋に面した海域におけるシステムなどがあげられる。

 増養殖の発展に関係する連邦の支援、取り決め、権限は多くの部局に及んでいる。特に、FDA(食品医薬品局)や環境保護局、陸軍工兵隊、FWS(魚類野生動物局)、そして農務省である。これらの部局はお互いに、また、産業、州政府、学術部門と協力しあい、増養殖施設に関する課題に取組み13、また、産業の持続性を改善する新技術開発を促進している。本政策は、これらの調整された取り組みにNOAAが継続的に関わる上での根拠となっている。

貢献(利益)と課題

 海洋環境における商業的な養殖生産、野生種の回復への関心が増加しており、それに伴って増養殖が与える可能性のある経済的、環境的、そして社会的な影響に関する議論が多く、これらの問題についてより良い国民の理解を得る必要性も増加している。持続可能な増養殖の持つ利益には、種や生息域の再生と保全、栄養塩の除去、食の安全や人間の健康と栄養に貢献する安全で地元産の水産食品の提供、低栄養段階の水産食品の増加する生産、漁獲漁業との相乗作用(魚類加工残渣を養殖用の餌に利用するなど)が含まれる。持続可能な増養殖は、地元集落における雇用創出や労働の場である海岸線地域の文化的独自性を維持することで経済的・社会的利益をもたらすことにも貢献できる。増養殖によって引き起こされる環境上の課題は、増養殖活動の種類や範囲、立地条件によって異なるが、残餌や排泄物による栄養塩や化学物質負荷、使用水の需要、魚病や侵入種、野生種に対する競合や遺伝的影響の可能性、絶滅危惧種や保護されている種への影響、保護されており影響を受けやすい海域への影響、他種の生息環境への影響、養殖用の餌としての餌魚の利用などが含まれる。経済的社会的課題には、国内養殖業の生き残りおよび/または漁業者が受け取る漁獲生産物価格に影響する流通における競争、海洋環境の他の用途との競争、生息域と生態系サービスの価値の低下、様々な文化的な伝統や価値への影響が含まれる。

 安全で地域色があり持続性を保持して生産される水産食品への消費者の要求の広がり、エネルギー費用の増加、現在、合衆国に水産食品を輸出している国々における水産食品需要の高まり、沿岸域での仕事を維持することへの関心の増大、これらが持続可能な国内増養殖生産を支える新たな駆動力である。連邦や州の段階での規制、科学の進歩、消費者の要求、技術革新、産業の最も効率的管理実践の方法、責任ある資源回復のための手順書、種苗生産の実施などを通じて、合衆国における増養殖生産は−規模の大小を問わず−持続可能な実践に向かって発展してきている。本政策は、以下に記述した活動を通して、NOAAがこれらの発展をさらに進めることを認可している。

注釈

  1. NOAAの水産増養殖に関する権限や活動の主要なものは海産の種類に関するものなので「marine aquaculture」を使うが、 この政策では海産、淡水、遡河性の種や五大湖を含む。
  2. この定義では、海産ほ乳類や鳥類は含まない。
  3. 部局間海洋政策特別委員会の最終勧告を採用し策定されたもので、http://www.whitehouse.gov/oceans から利用可能。
  4. この小委員会(科学、工学、技術に関する連邦調整審議会付属増養殖共同小委員会)は、1980年の国家増養殖法に基づいて設置さ れた。その目的は、連邦の増養殖研究、技術移転、援助計画の全般的な効率姓と生産性を増加させることにある。
  5. 連邦が許可した行動には、沿岸域管理法の許可条項との一致のもと、州の審査を条件としているものがある。
  6. 聞き取り用の要約版や内容を発展させるための一般からの意見のすべては、 http://aquaculture.noaa.gov に掲載されている。
  7. http://www.ppi.noaa.gov/strategic_planning.html から利用可能。
  8. 部局間海洋政策特別委員会の最終勧告。 http://www.whitehouse.gov/administration/eop/ceq/oceans から利用可能。
  9. 出典:合衆国商務省の「合衆国の漁業、2009年」
  10. FAO(2009), FISHSTAT Plus. 漁業統計年次報告の万国共通ソフトウエア バージョン2.32,この値には、淡水と海の生産量が含まれる。
  11. この値には、淡水と海の生産量が含まれる。が、アラスカの地方の増殖協会やサケマス栽培漁業計画によって生産されたサケマスの生産量は含まれない。2009年には、アラスカ州のサケマス栽培漁業計画で紅ザケと白サケ主体に4,500万尾が生産された。
  12. www.mypyramid.gov を参照。
  13. 近年の例は、国家水生動物健康計画であり、水生動物の健康を保証するために政府のさらなる調整努力を求める要求に応えて発展させられたものである。http://aquaculture.noaa.gov/news/naahp.html 参照。

NOAAの増養殖に関する優先権

 政策内容を履行するために、NOAAは次の優先権を認定している。

科学と研究

  • NOAAの研究職務範囲を拡張し、(1)生態学的、技術学的、経済学的、社会学的に必要なデータ と分析結果を提供する。それらは、私的および公的な増養殖業と種の回復部門を、効果的で持続可能なように発展、援助、管理、調整するためのものであり、枯渇し存続が危ぶまれ、さらに絶滅が危惧される種や生息地を再生・保全する上で必要と考えられる技術も含んでいる。(2)増養殖業の環境上の、また、社会経済学上の影響を累積的な影響も含めて監視、評価、処理する。(3)連邦、州および大学の協力者の科学的成果を補完し完全なものとする。
  • 養殖用の飼料として、天然の魚や魚油の代わりに利用される改良されたタンパク質や脂質原料を評 価する。また、海産物がもつ健康への有益さを保持しつつコストの低い代替飼料を開発し、養殖魚 の餌の天然魚依存を減じる。
  • 増養殖によって生ずる可能性のある生態系や社会経済に与える負の影響を防ぎ、最小化し、軽減す る方法論を開発し、費用対効果を評価する。
  • 海洋酸性化や気候変動が海面増養殖に及ぼす影響を監視、評価するとともに適応戦略を開発する。

規制

  • 連邦政府、各種漁業管理審議会、連邦顧問会議や委員会、沿岸域の州政府、種族政府、その他の利 害関係者、さらに議会に積極的に関わり、連邦、州及び種族などの他部局が持つ管轄権を踏まえた 上で、領海内の増養殖に関するNOAAの持つ規制権限を明確にする。併せて、適宜、関連する国 際的な基準を考慮に入れて、領海内の増養殖について、調整され、包括的で、科学に基づいており、 分かりやすく効果的な規制計画を作成する。この規制計画は、「規制の計画および審査の改善に関 する大統領の行政命令」に則るよう考慮され作成される。
  • 連邦、州、地域、種族、地方の公的機関や組織で働き、法的規制の要件を明確にする。さらに、許 可の検討・協議、および州の管轄する海域における他の規制・調整行動に関し、協調的、包括的で、 科学的に裏付けられた、透明性の高い一連の手順を確立する。−その際、現存する各種の許可や国 際的基準、地方、州、地区の到達目標や政策、目的を考慮する。
  • 国家海洋評議会の元に設けられている地方設計法人(Regional Planning Bodies)を含んだ他の部 局や管轄機関とともに、沿岸と海洋の空間的な設計立案に取り組み、競合する利用との矛盾を減少 させ、環境への負の影響を最小にし、増養殖の操業と共同配置が可能な活動を認定して増養殖の設 置を保証する。

技術革新、提携、そしてアウトリーチ

  • 革新的な増養殖技術が、実験室の研究から商業的なあるいは再生を目指したプロジェクトへ移行す るよう、連邦の協力者、沿岸の集落、州、種族、増養殖産業、非政府組織や他の利害関係者と共同 する。それらが環境、生態系そして社会経済学上に与える影響を記載、評価する。沿岸集落におけ る雇用を創出し、健康によい地元水産食品を生産し、職場である沿岸域の再活性化を進め、伝統的 な漁村を支援し、保護区域への影響を排除し、激減した種や生息域を回復するようなプロジェクト を重点的に進める。
  • 技術的、科学的なデータを解説し、それらの知見を他の利害関係者や国民に成果情報として提供す るために、公開講座や出前講義などのサービスを行う。
  • 介類個体群回復のための資源回復と商業目的を兼ねた介類養殖イニシアチブを支援する。そして地 元産の食品や仕事を提供し、水質改善を手助けし、沿岸域生息場を回復・保護する。
  • NOAAの漁業管理や執行力、基金援助、増養殖、水産食品検査、CZM(沿岸域管理)、NMS(国家 海洋動物保護区)および国家海洋基金計画の間の相乗効果を発展させ、魚類資源を回復したり、漁 業者にとって代替的、あるいは補足的な経済的選択肢を提供する。
  • 養殖共同小委員会や国家海洋会議に従事して、増養殖の取り締まりや科学出版物に関する連邦政府 内部局の調整を行い、他の海洋利用と増養殖の統合を図り、より包括的な環境モニタリングのプラ ットホームとしての養殖施設の使用を進めるなど、連携のための機会を追求する。

国際的な協同

  • 他の連邦政府部局とともに働き、食の安全、国際貿易、健全な海洋、さらに、経済的福祉に関する 米国の政策や優先権を支え、それと一致するような持続可能な増養殖に関し、統合的で一貫性があ り包括的な国際戦略を打ち立てる。
  • 他の国家と適切に働き、最良の実施例や生産物を例として用いて、持続可能な増養殖や食の安全へ の取り組み手法を採択する。
  • 他国と科学的な見識を交換し、多くの国にとって利益になる可能性のある共同研究への参加を促進 する。これには国際的な境界を越えて問題になっている増養殖の影響を含む。

実施と定期的な評価

 NOAAは、文書の発出後直ちにこの政策を実施する予定である。今後はNOAAの長官が改正あるいは撤廃するまでは、この政策が海域での増養殖に関するNOAAのすべての活動を導くことになる。

付録

 NOAAは、本政策に関する重層的な取り組みを行う予定である。また増養殖活動を規制するための特別な権限に関するより詳細な政策を公表する予定である。これら重層的な文書は、包括的な政策への付録として示される。

付録1.連邦内の領海における増養殖についてのNOAAの手引き

  付録1は、合衆国の排他的経済水域内における増養殖生産に関するNOAAの規制活動の目標を設定し、NOAAがそれぞれの目標を達成するために取るであろう原則と接近方法の一覧を提供している。今後、NOAAはそれぞれの目標を達成するために取るであろう具体的な活動を確認していくであろう。  

付録1
合衆国の排他的経済水域内における増養殖のためのNOAAの手引き

 この付録の目的は、合衆国の排他的経済水域内における増養殖生産に関するNOAAの規制と計画に基づいた活動を紹介するための一連の目標を設定し、NOAAがそれぞれの目標に到達するために取る活動の一覧を提供することにある。NOAAは、適切な権限のもと、連邦の協力者とともに、部局の権限と資金の範囲内で、これらの活動を実行する。

 これらの目標と活動は、NOAAの増養殖政策の拡張版であり、NOAAが行う海の増養殖に関係する活動のすべてに広く適用されるものである。

目標1.生態系との共存−連邦領海内における増養殖の進展は、健全で生産性が高く、回復力のある 海洋生態系の機能と共存できるものである。

 NOAAはこの目標を次の事項によって達成する。

  • 健全な沿岸や海洋の生態系を保護し回復させるための、また、海洋の生物資源や彼らの生息域、 他の保護区域を保護するための行政局の海洋管理責任に適う増養殖として、生態系を基礎にし た保護・管理基準を明らかにし、履行し、執行する。
  • 野生種の健全性、遺伝的特質、生息域、および個体群を維持するように設計された増養殖のた めの保護・管理対策を明らかにし、履行し、執行する。即ち、水質を維持し、環境への逃避や 事故による放出を防除し、野生の魚類個体群や海産哺乳類、鳥類、そして保護されている種と の有害な相互作用を防ぐ。
  • 資源の回復のための努力を続ける。
  • 利用可能な最良の科学によって、領海内における対象海域産のものでない種や異種の利用が、 逃避という事故によって、野生種や生息域、あるいは生態系に不適当な危害をもたらさないと いうことが証明されない限り、領海内においては野生、あるいは帰化種の利用に限った増養殖 のみを支援する。
  • 科学に基づく適応的管理を採用する。
  • 海洋環境の全栄養段階を通して、また、他の人間活動の影響と結合した、増養殖の累積的な影 響を考慮する。
  • 持続可能なものとして管理された漁業から得られる魚の利用や、代替のタンパクや脂肪源の利 用による養殖魚の餌の利用を促進する。
  • 他の部局や管轄権のもとで管理される海洋資源との相互作用を考慮する。
  • 国家環境政策法の求めるところに従って、領海内において提案された施設等の影響について、 計画に基づき、あるいは現場に即した形で審査を実施する。

目標2.他の利用との共存−領海内の増養殖施設等は、その海洋環境に関する他の許可された利用と共 存可能な方法で、設置・操業される。

 NOAAはこの目標を次の事項によって達成する。

  • 地方や国の沿岸と海洋における空間利用計画(CMSP)活動や生態系への適合性目標との関係 で、領海内において増養殖業の正確な位置決めを行うツールを開発するために他の部局と協調 する。これには、競合する諸利用間の利害の衝突を少なくするためのツールや、潜在的に増養 殖の操業と施設共用が可能な活動を確認するツールを含む。
  • 領海内における増養殖の開発に関する決定に、州の意向を具体化する。
  • 事業の計画と推進に関し、可能な限り早い段階で、利害関係のある増養殖開発業者、関連州部 局、漁業管理審議会、種族政府、他の連邦部局、連邦顧問会議、そして国民の間で意見交換を 促進する。
  • 海における人命の安全性を増進させ、沖合域での増養殖業に従事する労働者に立地上の知識を 提供する。これには沿岸・海洋の予報と海洋航海気象の提供を含む。

目標3.最も有益な科学と情報−領海内における増養殖に関する管理決定は、利用しうる最良の科学と 情報に基づいている。

 NOAAはこの目標を次の事項によって達成する。

  • 管理決定は、利用しうる最良の科学情報に基づいて行う。−生物学的、技術学的、生態学的、 経済学的、社会学的データを含む−
  • 沖合養殖業で観察される、あるいは可能性のある影響と有益性に関する現段階での科学的理解 について、情報を総合化し伝達する。
  • 現在の知識体系に起因するギャップ(欠落)や不確かさを見極め、これらの不確実性を部局の 決定に組み入れる。
  • 科学的研究を実行し支援する。そして政府機関の政策決定者に沖合域養殖技術や実施例、利点、 経費、およびリスクに関する情報を提供する。また、持続可能な実施例や生産物を新しく開発 し、既存のものを改良する。
  • 健全で生産的な生態系の生物多様性、捕食者−被食者相互関係、さらに他の重要特性に増養殖 が与える影響(累積的な影響を含む)をモニターし、評価するとともに、データベースを整備 する。
  • 沖合養殖の影響に関する科学的知見を進歩させ、環境や社会への負の影響を防ぎ、最小にし、 和らげる費用対効果の高い沖合養殖技術や事例を展開するために、州や連邦部局、大学関係、 種族や他の組織と共同して働く。
  • 利用できる最良の科学情報を反映させ、保護・管理基準を最新化し、柔軟に改変する。
  • 沖合養殖業に積極的に関与している他の国からの知見を導入する。

目標4.社会経済的利点−領海内の持続的増養殖への投資は、地方や州の到達目標を考慮しつつ、国家 の経済や沿岸の集落、水産食品消費者へ純利益を与えるものでなければならない。

 NOAAはこの目標を次の事項によって達成する。

  • 合衆国の地域社会において新しい増養殖業による雇用や経済成長の機会を創出する。それによ り、商業的あるいは娯楽のための魚釣りを補完し、仕事のあるウォーターフロントを維持し、 再活性化させ、国の経済全体を通して、川上および川下の双方に経済的機会を提供し、消費者 に国産水産食品のさらなる選択幅を提供する。
  • 他の連邦部局と共同して、増養殖生産物(外国産,国内産)の消費による食の安全や健康への 効果を評価する。
  • 領海内で操業する増養殖の生産者にとって有益な、国による出来高払い注)の水産食品検査業務 の提供を行う。           

    注(訳者注意書き):供給された個々のサービスや診察に対して報酬を支払う制度.支払いは患者や(保険者などの)第三者が行う。

  • 管理決定が、許可申請者、個々の集落、影響を受けると認定される全集団、そして合衆国経済 に対して及ぼす可能性のある肯定的・否定的な社会的、経済的、文化的影響について、個別的 累積的に、また、短期的・長期的期間にわたり評価を行う。これには、仕事のあるウォーター フロントにおける雇用や経済的可能性への影響が含まれる。
  • 社会的、経済的、文化的影響を処理するための緩和(mitigation)手法を定義し、開発し、支援する。

目標5.産業としての説明責任−領海内での養殖施設経営に対し、長期にわたるアクセスを確保するた めに、操業者は環境、野生種、人間の安全を守ること、及び継続的監視を行い報告することに、責任 を負わなければならない。

 NOAAは、連邦政府部局や他の協力者と共同して、適切な枠組みを明らかにするために働き、養殖 施設の操業者が次の事項を実行することを通して、この目標を達成する。

  • 許可の審査を行う前に、申請海域の基準環境分析を実施する。
  • 繁殖管理計画や水生動物健康計画、非常事態に対応する不測事態対処計画を準備し、履行する。
  • 操業計画を準備し、連邦の認可を得、それを遵守する。この計画は、広く認められた最善の管 理方法を利用して、飼育魚の逃亡や疾病の発生、騒音の影響、紛糾の数や回数を最小にするこ とで、良好な飼育、バイオセキュリティ(注)、捕食者の制御、維持管理を保証するものである。

    注(訳者注意書き):飼育場への病原体などの侵入を防ぐこと

  • 監視計画を準備し、連邦の認可を得、それを遵守する。それは、すべての監視・報告要請に添 ったものであり、飼育魚の逃亡や疾病の発生、薬剤や化学物質の適用、栄養塩の排出、NOAA や他の連邦政府部局が求める環境モニタリングの報告を含んでいる。
  • 環境的に効率がよく、信頼できる管理業務を取り入れる。これには、薬剤や化学物質、飼料と いったものの環境への投入量や排出量を減らすといったことが含まれる。
  • 権限を持った役人による定期的な施設への点検を認める。
  • 要請に対しては、関連の法律に従っている証拠を提供する。この法律には、薬剤や飼料の利用 を調整したり、他の部局の管轄のもとにある他の操業上の詳細が含まれる。
  • 施設の移動や設置場所の修復を申請する際の保証書の証明を提供する。
  • 一旦操業が終わったら、必要性や実行可能性に応じて、施設や生き物を安全に取り除き、環境 状態を回復させる。
  • 海における人々の生活の安全を保証する。

目標6.承認手順−領海内における増養殖操業の可否判定は、時宜を得た、偏りの無い、科学的な裏付けがあり効率のよい平明な方法で実施される。

 NOAAは、次の事項によってこの目標を達成する。

  • 科学的裏付けのある承認審査と認可の発布が、効率よく、調整された、平明でタイムリーな過 程で履行され、認可に至る経緯や必要条件に関する分かりやすい情報を連邦部局のウェブサイ トで利用できるようにする。
  • 個人や民間あるいは公共団体、連邦や州、種族集団や地域の関係官庁に負担をかけることにな る取り締まりに関する不確かさを縮減し、不必要な取り締まりを最小限にする。
  • 許可審査や承認、執行は、部局内および他の連邦部局とよく調整し、これによって、現在の規 制条件の順守を保証し、効率的で時宜にかなった規制のプロセスの発展を助長する。
  • 漁業管理委員会や州、種族政府、地元の関係官庁や利害関係者が国の管理判定を理解するため に、公衆への告示や説明の機会を提供する。
  • 連邦の法や規制条件に関する定期的な査定を実施するに当たって指導力を発揮し、国会や他の 連邦部局、漁業管理委員会や州と協議し、連邦の権限内におけるずれや重複を確認し、連邦政 府の役割と責任を明確にするとともに、増養殖の許可に関する最新のプロセスを開発する。ま た、領海内の規制条件を強化する。

目標7.一般への宣伝−社会が、領海内における持続可能な増養殖の推進やそれと関連した環境や社会経済的課題と利益に関する正確な認識を持つ;監視情報は、直ちに一般が利用できる。

 NOAAは、この目標を次の条項によって達成する。

  • 領海内で実施される増養殖業のメリットとトレードオフ(注)、技術、魚種、実施方法に関する 地方的な、また国家的な情報内容を明らかにし、広く普及し、効率よく伝達する。
  • タイムリーな方法で、透明性と秘密性に関して適用可能な基準に従って、監視データや結果、 領海内で操業している養殖施設から提出された情報、領海内の養殖操業者から報告されたデー タの分析情報、そして、NOAAや他の部署によって実施された研究結果の情報を、社会的に利 用しやすくする。
  • 公開講座や出前講義を通して、新しい研究成果、特に、地元の調査や実施事業で得られた知見 を、一般に広く伝達する。

    注(訳者の注意書き):trade-off(特により有利なものを得るために、何かを差し出す)取引、交換


(訳:山崎 誠特任部長、協力:杜多 哲研究開発専門員)


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