簡易柱状採泥器の開発


[要約]
 エクマン採泥器を利用した簡易な柱状採泥器を開発した。装置本体は開閉できる蓋を備えたアクリルパイプで、これをクランプによりエクマン採泥器内部にとりつける。本装置には、軟質底面でも堆積物・水境界層を乱さない、砂質堆積物でも採集できる、容易に扱え安価である、といった長所がある。
養殖研究所・環境管理部・技術第二研究室
[連絡先]  05996−6−1830
[推進会議]  水産養殖
[専門]  環境評価
[対象]  採泥
[分類]  普及

[背景・ねらい]
 魚類養殖場では残餌や魚糞が生簀下に落下・蓄積して底質や水質の悪化を招いている。その環境モニタリングに堆積物の化学分析項目や微小底生生物群集が指標として用いられているが、堆積層を乱さずに採集しなければならない。従来より堆積物の採集には柱状採泥器(コアサンプラー、コアラー)が用いられてきたが、それらの多くは、海底に落ちたときの衝撃で底泥表面が乱れる、装置が大きく重い、装置の下端から試料がこぼれ落ちる、底面に必ずしも垂直に落ちないといった採泥の不安定さに欠点があった。そこで、これらの欠点を解決し、かつ簡単で安価な柱状採泥器を考案した。
[成果の内容・特徴]
 装置の作製法:本体にはアクリルパイプ(内径44mm)を用い、その上部に開閉できる蓋を付ける(図1)。蓋のもう一方とこれと対応するパイプ上部にフックを設け、ゴムバンドを掛ける。蓋上のフックに紐を付け、その端を輪にする。このコアチューブをクランプにより市販のエクマン採泥器(20cm角)の内部にとりつける。クランプでチューブを固定した後、蓋上部の紐の端を採泥器の掛金に掛ける(図2)。
 装置の使用法:コアチューブを付けたエクマン採泥器を降ろして海底にゆっくりと着地させると、チューブは採泥器の自重により堆積物に垂直に貫入する。採泥器のメッセンジャーを落とすと、採泥器の底蓋とともにチューブ上の蓋が閉じて、チューブ内が密閉される。船上に引き上げ、チューブ下端をゴム栓で蓋して取り出す。チューブの下方よりゴム栓を棒で押し上げ堆積物を層別に分取したり、堆積物直上の水をサイフォンで採り、試料とする。

装置の長所:

  1. 堆積物表面を乱さずに採取できる(図3)。
  2. 砂質堆積物でも採取できる。
  3. 堆積物直上水を採取できる。
  4. コアチューブが交換できる。  
  5. 採集したコアをそのままの状態で実験用の試料として利用できる。  
  6. 取り扱いが容易である。  
  7. 特殊な工作を要せず安価で手作りできる。  
  8. 動作が確実で故障しにくい。

 このように、本装置は簡単に製作でき、取り扱いが容易で、堆積物とその直上水のきわめて良好な試料を採取することができるので、養殖場の環境モニタリングの他、沿岸・陸水域の微小底生生物、赤潮プランクトンのシスト等の採集および水・堆積物境界層の物理化学的過程を調べるための標準的な試料採取法となりうる。

[具体的データ]

図1 3種のコアチューブ。A.蓋とパイプをゴム板で連結させたタイプ。B.蓋とパイプを輪ゴムで連結させたタイプ。C.方形のパイプを使用したタイプ。

図2 エクマン採泥器にとりつけたコアチューブ。

図3 コアサンプルの1例。a.底生生物の巣穴。b.有孔虫の1種。


[その他]
研究課題名:マクロベントスによる海面養殖漁場の簡易な環境監視・診断法の開発
予算区分 :水産業振興費
研究期間 :平成8〜12年度
研究担当者:横山 寿
発表論文 :1)Yokoyama,H&H.Ueda,1997,A simple corer set inside an Ekman
           grab to sample intact sediments with the overlying water.Benthos Research,52.2
           横山寿,1997.エクマン採泥器を利用した簡易コアサンプラー.養殖研ニュース,36.

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