アコヤガイの赤変化異常現象の人為的再現


[要約]
 アコヤガイの閉殻筋の赤変化を伴う大量へい死が発生しているが、今回、外套膜片移植実験により、この赤変異常貝の人為的再現に成功した。従って、原因解明に有用な研究手法が開発されたと共に、これは感染症である可能性が強いと判断された。
養殖研究所・栄養代謝部・代謝研究室
[連絡先]  05996−6−1830
[推進会議]  水産養殖
[専門]  魚介藻生理
[対象]  他の二枚貝
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 真珠養殖が行われているほとんどの地域で、平成8年から2年間続いて養殖中のアコヤガイが大量にへい死し、真珠養殖業に深刻な影響を与えている。この大量へい死では、夏から秋にかけて閉殻筋が赤褐色に着色し、閉殻筋や外套膜に組織異常がみられる個体(赤変異常貝)が発生し、これらの多くが急激にへい死した事例が多く、これは過去の大量へい死にはみられない特徴である。この大量へい死の原因解明を効率的に行うためには、赤変異常貝を人為的に再現することが必要であり、本研究ではその再現手法の開発を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 健常貝の生殖巣に赤変異常貝の外套膜片を移植する実験を実施した結果、2ヶ月間ですべての健常貝が赤変異常貝になり、3ヶ月目までに13.3%へい死した(図1)。一方、健常貝の外套膜片を健常貝に移植した対照区では、赤変異常貝もへい死も発生しなかった。
  2. したがって、赤変異常貝の人為的再現手法が確立された。また、アコヤガイの赤変化及びへい死は、感染症が原因である可能性が極めて強いと考えられた。
[成果の活用面・留意点]
 本研究において、アコヤガイ赤変異常貝の人為的再現手法が確立できた。この手法を活用することによって、病原体の特定、病態生理と閉殻筋赤変化のメカニズムの解明などが飛躍的に発展することが期待される。今回の大量へい死は感染症が原因と判断されることから、今後真珠養殖にあたっては、感染症に配慮した養殖管理を行う必要がある。また、外套膜片移植による感染実験手法は、二枚貝類は同種であれば他個体の組織を移植しても拒絶反応が起こらないという生理特性に基づいたものであり、組織移植による感染実験手法は二枚貝類に広く応用できる有用な研究手法と考えられる。

[具体的データ]

図1.外套膜片移植実験
 赤変異常貝の外套膜片を健常貝に移植した実験群では、2ヶ月目には赤変化が起こり、外套膜や閉殻筋に組織異常が発生し、3ヶ月までに13.3%(2/15)がへい死した。健常貝の外套膜片を健常貝に移植した対照群では、赤変化もへい死も発生しなかった。  


[その他]
研究課題名:アコヤガイの閉殻筋赤変化を伴う大量へい死に関する研究
予算区分 :経常 
研究期間 :平成9年(平成9年)
研究担当者:黒川忠英・鈴木 徹・岡内正典・永井清仁(ミキモト真珠研)・中村弘二(中央水研)・
      本城凡夫(九州大)・中島員洋・船越将二
発表論文等:外套膜片移植によるアコヤガイ閉殻筋赤変化再現の試み、平成10年度日本水産学会春季大会講要、p.106,1998

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