海水飼育による雌ウナギの成熟誘起


[要約]
 養殖雌ウナギは、ホルモン投与を行わない限り飼育環境下では性的に未熟な状態を維持すると考えられていたが、海水中で3ヶ月間飼育することにより、卵黄形成を開始することが明らかとなった。これにより、成熟・排卵までのホルモン投与期間を短縮することが可能となった。
養殖研究所・繁殖生理部・繁殖生理研、繁殖技術研、発生生理研
[連絡先]  05996−6−1830
[推進会議]  水産養殖推進会議
[専門]  魚介類繁殖
[対象]  ウナギ
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 ウナギ養殖の種苗であるシラスウナギ資源は長期的に減少傾向にあり、それに伴って種苗の価格が高騰し、養鰻経営に大きな打撃を与えている。そのため人工種苗の生産技術の開発が急務となっている。これまでの我々の一連の研究により、養殖した雌ウナギを海水に移行し、これにサケ脳下垂体抽出液を反復投与することにより卵黄形成を行わせ、次にプロゲステロン系ホルモン(17,20β-DHP)を投与することにより、確実に排卵を誘発させることが可能となった。しかし、排卵誘発が可能となるまでのサケ脳下垂体の投与期間は遅いものでは4ヶ月を必要とし、またその期間は個体により大きく変動することが催熟技術を確立する上での大きな問題点となっていた。今回我々は、雌の養殖ウナギが海水に移行して長時間飼育するだけで卵黄形成を開始し、排卵誘発までに必要なサケ脳下垂体の投与期間が短縮化されることを、実験的に明らかにした。

[成果の内容・特徴]

  1. 2年6ヶ月間淡水中で飼育した養殖雌ウナギを海水に移し、サケ脳下垂体抽出液を海水移行1週間後から投与する群と3ヶ月間後から投与する群に分け、それぞれの群の脳下垂体抽出液投与前の成熟度、並びに投与による催熟効果を比較検討した。
  2. 海水移行1週間後の群に比べ、3ヶ月後のものでは卵径、生殖腺重量の有意な増大が認められ、卵黄形成を開始している個体も多く観察された。
  3. 海水移行1週間後の群では、下垂体抽出液の反復投与によって排卵誘発が可能となるまでに8週から15週(平均10.6週)を要したが3ヶ月後の群では7週から11週(8.5週)に短縮かされるとともに、個体間の変異が小さくなった。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本研究の成果は、ウナギ親魚の催熟に要する労力の大幅な軽減に寄与するものと期待される。
  2. 本研究は、海水に移行するだけで養殖ウナギが卵黄形成を開始することを明らかにした最初の報告である。

[具体的データ]

表1 サケ脳下垂体抽出液投与開始前の海水飼育期間の異なる雌ウナギから採卵した卵の受精率およびふ化率

図1  海水飼育期間の異なる雌ウナギのサケ脳下垂体抽出液投与回数と排卵個体数

図2  海水飼育期間の異なる雌ウナギの生殖腺指数と卵径


[その他]
研究課題名:内分泌学的手法を応用したウナギの催熟
予算区分:大型別枠(生物情報)
研究期間:平成9年度(平成5年〜平成9年)
研究担当者:香川浩彦、田中秀樹、太田博巳、奥澤公一
発表論文など:Effects of seawater acclimation on induced maturation in femalc japanese ecl
              Anguilla japonica. Fisherics Science,(印刷中)

[研究成果情報一覧] [研究情報]