[背景・ねらい]
ブリ細菌性溶血性黄疸原因菌は難培が困難であるために、分子生物学的情報や生化学的性状に関する情報が少なく、学名や分類学的位置が決定していなかった。
本研究では、ブリ細菌性溶血性黄疸原因菌の性状やゲノム配列を調べ、本菌が分類学的にどのような細菌群と近縁なのかを明らかにし命名を行った。
[成果の内容・特徴]
ブリ細菌性溶血性黄疸原因菌(図1)の近縁種を明らかにする目的で16S rRNA配列の比較解析を行ったところ、本菌がFlavobacteriales目 Flavobacteriaceae科のAquimarina muelleriやTenacibaculum maritimumに
近縁であることが分かった。しかし、培地中での増殖性比較、脂肪酸組成と極性脂質組成の比較、および薬剤感受性比較からは、本菌がこれらの細菌とは全く異
なる細菌であることが示唆された。そこで、DNAジャイレース(gyrB)の遺伝子配列を決定し分子系統解析を行ったところ(図2)、本菌が新種であるこ
とが明らかになり、(Ichthyobacterium seriolicida)と命名した。本菌の全ゲノム配列解読にも成功し、約1.9 Mbpの環状DNAゲノムを有することが分かった(図3)。
[成果の活用面・留意点]
本菌の学名が決定したことにより、「Ichthyobacterium seriolicida感染症」という魚病名が追加選定された。全ゲノム配列が解読されたことにより、培養方法の改良や感染防御抗原の予測が可能になった。これらから得られる情報はブリのIchthyobacterium seriolicida感染症に対する有効なワクチン開発に結びつけることができる。
[その他]
研究課題名:遺伝子情報を利用した難培養性病原体に対するワクチン技術の開発
研究期間:2010-2012
予算区分:農林水産省技術会議「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」
研究担当者:高野倫一・中村洋路・松山知正・坂井貴光・重信裕弥・菅谷琢磨・安池元重・藤原篤志・中易千早
発表論文等:Takano T, Matsuyama T, Sakai T, Nakamura Y, Kamaishi T, Nakayasu C, Kondo H, Hirono I, Fukuda Y, Sorimachi M, Iida T. Ichthyobacterium seriolicida gen. nov., sp. nov., a member of the phylum 'Bacteroidetes', isolated from yellowtail fish (Seriola quinqueradiata) affected by bacterial haemolytic jaundice, and proposal of a new family, Ichthyobacteriaceae fam. nov. Int J Syst Evol Microbiol. 2016; 66(2):580-586.
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