小型容器を用いたブリ卵の高塩分孵化管理方法 |
ブリではゲノム編集のために受精卵への顕微注入を実施しているが、注入後の卵を500ml程度の小型容器で孵化管理すると沈降死が生じ、孵化率が著しく低かった。本研究では小型容器でのブリ受精卵の孵化管理において、塩分を35
psuに調整することで卵の沈降を抑制することで、顕微注入卵でも56.7%の正常孵化率を得ることができた。 |
担当者名 |
国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所 育種研究センター 系統開発グループ |
連絡先 |
Tel.0972-32-2125 |
推進会議名 |
水産増養殖関係 |
専門 |
増養殖技術 |
研究対象 |
ぶり |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい] 増養殖研究所育種研究センターではブリを対象として、新規の育種技術として期待されるゲノム編集技術を応用してF0またはF1世代での系統作出を目指している。しかし、本種は孵化前に卵の比重が大きくなって沈降するため、小型容器(500ml程度)での孵化管理が極めて困難である。例えば、ろ過海水(塩分およそ33psu)を使用して小型容器で孵化管理した場合、その孵化率は数%にまで低下する。本研究は環境水中の塩分を高めることで受精卵が沈むことを防ぎ、小型容器でも孵化管理できるようにすることを目的とした。
[成果の内容・特徴] 小型容器でのブリ受精卵孵化管理法を開発するため、(1)ブリ受精卵の発生に伴う比重の変化の把握(卵比重の変化)、(2)孵化管理における最適塩分の検討(孵化塩分試験)、(3)実際に顕微注入した受精卵(以下、顕微注入卵)を異なる塩分の海水に収容し、塩分が顕微注入卵の発生に及ぼす影響の解明(顕微注入卵による孵化塩分試験)を目的とした。すべての試験は水温20℃で実施した。(1)卵比重の変化:孵化30時間前から卵比重の測定を開始し、孵化5時間前に卵比重が海水の比重を超え、受精卵が沈降することを確認した。(2)孵化塩分試験:ブリ受精卵の孵化における最適な塩分を明らかにするため、孵化30時間前(胚体形成卵)に塩分30から60
psuまでの8段階に調整した海水を入れた6穴マイクロプレートに収容して孵化管理した。その結果、塩分35から40
psuまでの間で80%以上の高い正常孵化率を示した(図1)。(3)顕微注入卵による孵化塩分試験:実際に顕微注入した原腸胚の受精卵を用いて塩分35と40
psuの海水に収容した結果、奇形個体を含む孵化率はおよそ80%を示したが、その正常孵化率は塩分40 psuで7.4%と著しく低かった一方、塩分35
psuで56.7%と高い正常孵化率を示した(図2)。このように調整した塩分を用いることでブリ受精卵における孵化前の沈降を防止し、顕微注入卵でも高い孵化率が得られることを明らかにした。
[成果の活用面・留意点] 正常孵化率を高めることは、魚類における育種、種苗生産などに関わる様々な試験研究において重要である。増養殖研究所育種研究センターでは、様々な育種技術を応用した系統作出や不妊化技術開発で本法を活用することを予定している。なお、顕微注入卵では塩分35
psuが有効であったが、非顕微注入卵では塩分35-40
psuの範囲で有効であった。また、卵の発生段階によっては高塩分での孵化率低下の可能性が示唆された。
[その他] 研究課題名:養殖ブリ類の輸出促進のための低コスト・安定生産技術の開発
研究期間:平成26〜30年度
予算区分:農林水産技術会議委託プロジェクト研究
研究担当者:嶋田幸典,石川卓,名古屋博之,薄浩則,堀田卓朗,吉田一範,藤浪祐一郎,岡本裕之(水研機構)
発表論文等:日本水産学会誌 82(4),
601-607 (2016) |
[具体的データ] |
図1.異なる塩分におけるブリ受精卵の孵化率(a, c)と正常孵化率(b,
d)
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試験1回目:(a, b)、試験2回目:(c,
d)。統計処理は一元配置分散分析を行った後、Tukey-Kramerの多重比較を行った。異なるアルファベット間はP <
0.05で有意差あり。 |
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図2.塩分35と40
psuにおける顕微注入卵(Inj.)と非顕微注入卵(Non-inj.)の孵化率(a)と正常孵化率(b)
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統計処理は一元配置分散分析を行った後、Tukey-Kramerの多重比較を行った。異なるアルファベット間はP
< 0.05で有意差あり。 |
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