アコヤガイ外套膜から分離した外面上皮細胞の移植による真珠形成法の開発
アコヤガイ外套膜から貝殻を作る外面上皮細胞を分離し、その細胞を真珠核に掘った小穴に入れて母貝に移植する方法により、真珠核表面に高率で真珠層が形成された。また貝殻真珠層黄色度で選抜育種された黄色系および白色系アコヤガイの外面上皮細胞を様々な比率で混合して移植すると、形成される真珠の黄色度が混合比に応じて変化し、表現型の異なる外面上皮細胞が共存して真珠を作ると考えられた。
担当者名 国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所 育種研究センター 繁殖制御グループ 連絡先 Tel.0599-66-1843
推進会議名 水産増養殖関係 専門 増養殖技術 研究対象 あこやがい 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
アコヤガイをはじめとする真珠貝を用いた真珠養殖では、真珠貝の外套膜の一部を切り出した小組織片(ピース)を、貝殻で作った真珠核とともに同種他個体(母貝)の体内に移植(挿核)して真珠を生産する。移植されるピースの組織のうち真珠形成に重要なのは貝殻形成能を持つ外套膜外面上皮細胞なので、ピースに換えて外面上皮細胞を真珠核と共に母貝に移植しても真珠が形成されると考えられる。もし外面上皮細胞の移植により効率よく真珠が生産できれば、挿核時に母貝体内に生じる組織屑の減少による真珠品質の向上、表現型の異なる外面上皮細胞の混合移植による優良形質の重ね合わせなどが期待できる。しかし真珠形成率の高い外面上皮細胞移植法は未開発である。そこで外面上皮細胞の移植による真珠形成法を開発するとともに、表現型の異なる外面上皮細胞の混合移植を行い形成される真珠の特性を検討した。
[成果の内容・特徴]
アコヤガイ外套膜から貝殻を作る外面上皮細胞を酵素処理で分離し、その細胞を移植して真珠を形成させる方法を開発した。直径4.5mmの真珠核に直径1mm深さ0.5〜1mmの小穴を掘り(図1)、その穴に外面上皮細胞を入れて母貝に移植する方法を用いて1核あたり約5万細胞を移植すると、平均87%の真珠核表面に真珠層が形成された(図2)。また貝殻真珠層黄色度の高低により選抜育種された黄色系および白色系アコヤガイの外面上皮細胞を分離し、それを様々な比率で混合して移植すると、形成される真珠の黄色度が混合比に応じて変化した(図3)。この結果から、混合して移植された表現型の異なる外面上皮細胞は、混合比を維持して母貝体内で共存して真珠袋を形成し真珠を作ると考えられる。
[成果の活用面・留意点]
開発された方法は真珠養殖の現場に直ちに導入できるものではないが、将来的にアコヤガイの育種により作出される複数のピース貝系統の優良形質を、細胞レベルで共存させ重ね合わせる方法として利用が期待される。
[その他]
研究課題名:アコヤガイ外套膜上皮細胞移植による真珠生産法と真珠黄色度調節技術の開発

研究期間:平23-25

予算区分:日本学術振興会学術研究助成基金助成金(挑戦的萌芽研究23658169)

研究担当者:淡路雅彦

発表論文等:1)淡路雅彦ら アコヤガイ外套膜から分離した外面上皮細胞の移植による真珠形成、日本水産学会誌、80(4)、578-588(2014)

2)淡路雅彦ら 4章 外套膜外面上皮細胞の移植による真珠形成、淡路・古丸・船原編、「水産学シリーズ180 真珠研究の最前線―高品質真珠生産への展望」、48-59、恒星社厚生閣、東京(2014)

3)淡路雅彦 外套膜上皮細胞移植による真珠形成、真珠の雑誌、105、19-23(2015)

[具体的データ]

図1

外面上皮細胞移植用に小穴を掘った真珠核。目盛は1mm。(参考文献3)から引用)


図2

外面上皮細胞の移植で形成された真珠。右下に真珠が形成されなかった核を示した。(参考文献3)から引用)


図3

貝殻真珠層黄色系と白色系アコヤガイの外面上皮細胞を混合移植して形成された真珠の黄色度。縦軸は真珠の黄色度測定値(平均と標準誤差)、横軸は混合比を示す。異なるアルファベットは有意な差があることを示す。(参考文献1)から改変して引用)






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