キセノハリオチス感染症における国内アワビ種(クロアワビ、メガイアワビ)への病原性
本試験はメガイアワビとクロアワビにおけるキセノハリオチスの病原性を調べた。水温別に12ヶ月間実験感染した貝からPCR法で本菌を検出し、病理組織検査を行った。15℃区と20℃区の両種の菌検出率(陽性数/検査個体数)は70%以上であり、消化管と中腸腺に菌がみられたが病変はなかった。25℃区は0%であった。本菌は両貝種に対し20℃以下では長期間感染するが病原性は低いことが示唆された。
担当者名 国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所 魚病診断・研修センター 魚病診断グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖関係 専門 病理 研究対象 あわび 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
キセノハリオチス症は米国西海岸のアワビに大量死をもたらした細菌性疾病である。本菌はアワビ類の消化管の上皮細胞内に寄生するが、慢性化すると,本菌が消化腺に寄生し、消化腺が変性し貝は死に至る。水温が感染に大きな影響を与えることがわかっており、低温性のアワビは水温の上昇(19℃)とともに死亡率が上がる。一方、温帯性のアワビ種の適水温は25℃であることが示唆されているが、感染実験はされていない。日本国内では、2011年にクロアワビから本菌が初めて検出されたが、病原性には不明な点が多い。本試験では、国内のアワビ種(クロアワビおよびメガイアワビ)に対する本菌の病原性を調べた。
[成果の内容・特徴]
本試験はメガイアワビ(以下メガイ)とクロアワビ(以下クロ)を用いて、水温別(15、20、25℃)に感染試験を実施し、感染12ヶ月まで経時的に貝を採取し、病原性をPCR法と病理組織検査により評価した。試験は感染貝を感染源とした同居法によりアワビ種別に実施し、感染区を6区、対照区を6区準備した。感染1、3、12カ月後に感染区から30、10、10個体の同居貝をアワビ種別、水温別に採取しPCR法で本菌の陽性率(陽性数/検査個体数)を算出した。感染1、5、12ヶ月後のメガイの15℃における陽性率はそれぞれ3、70、100%であり、20℃は13、80、70%、25℃は感染1―12ヶ月後まで0%であった(表1)。一方、クロの15℃における感染1、5、12ヶ月後の陽性率はそれぞれ53、100、100%であり、20℃は87、90、100%、25℃は70、50、0%であった(表2)。感染5カ月以上経過した貝のうち、PCR陽性57個体(メガイ25個体、クロ32個体)について病理組織検査した結果、15個体(メガイ9個体、クロ6個体)の消化管上皮および3個体(メガイ2個体、クロ1個体)の中腸腺に本菌が見られた(図1−5)。しかし、本菌感染による病変は認められなかった。なお、対照区においては、両種ともに、いずれの水温区からも本菌は検出・観察されなかった。以上から本菌は日本の両アワビ種に対して20℃以下の低温で長期間感染することがあるが、大量死を起こす高い病原性はないことが示唆された。
[成果の活用面・留意点]
本試験はクロアワビとメガイアワビを用いて、キセノハリオチスの実験感染を長期間にわたり実施し、病原性を評価した。その結果から、国内の主要なアワビ種である両種に対する本菌の病原性が低いことが示唆された。このことは、本症における国内の防疫対策の今後の施策に大きな影響を与えた。
[その他]
研究課題名:持続的な養殖業の発展に向けた生産性向上技術と環境対策技術の開発

研究期間:2013年度-2015年度

予算区分:農林水産省「水産防疫技術対策委託事業」

研究担当者:桐生 郁也、嶋原 佳子、河東 康彦、稲田 真理

発表論文等:平成26年度日本魚病学会秋季大会講演要旨 17
[具体的データ]




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