ニホンウナギの高密度遺伝連鎖地図を作製
ニホンウナギ(Anguilla japonica)の遺伝子の目印となる2,787個のDNAマーカーを開発し、これらのDNAマーカーの染色体上の位置を明らかにすることで、遺伝連鎖地図を作製することに成功しました。今回の成果により、仔魚の成長やシラスウナギへの変態に関わる遺伝子の特定が加速化されると期待されます。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所 養殖システム部 ウナギ量産研究グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖関係 専門 水産遺伝育種 研究対象 うなぎ 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
 水研センターでは、2010年に人工生産したシラスウナギを親魚にまで育てて人為的に成熟させ、人工第二世代を作り出すこと(完全養殖)に成功しました。今後、育種に取り組むことで現在よりも人工飼育に適した特性を持つ品種を作出することが可能になり、養殖用種苗としての実用化を加速化することが期待されます。詳細な遺伝連鎖地図を利用することにより、有用な形質に関わる遺伝子を探し出し、その近くにある目印(DNAマーカー)を使って望ましい遺伝的な能力を有する個体を選抜することで有用形質を有する品種を従来よりも効率的に開発することが期待されます。
[成果の内容・特徴]
 ニホンウナギのゲノム情報をもとに、2,787個のDNAマーカーを開発し、人工的に作出した解析用の一対交配家系(雌雄の親魚とその子孫92個体)を材料に、各DNAマーカーの染色体上の位置を示す遺伝地図を作製しました(図1)。遺伝地図は、雌親側(図1-A)と雄親側(図1-B)の2種類をそれぞれ作製しました。今回の解析に用いた2,787個のDNAマーカーは雌雄ともに19の連鎖群に分類されました。ニホンウナギの染色体は19本(図2)なので、連鎖群は染色体数に対応しています。今回の遺伝地図作製により、DNAマーカーの染色体上の位置を手がかりに、有用形質に関与する遺伝子の数や染色体上の位置をゲノム全体から探索する「ポジショナルクローニング」が可能になりました。これにより、ニホンウナギの重要な形質に関わる遺伝的なメカニズム解明が大幅に加速することが期待されます。


[成果の活用面・留意点]
 今回作製した遺伝地図を用いて、仔魚期の成長やシラスウナギへの変態までの期間に関与する遺伝子について探索を行い、飼育の難しい仔魚期間を遺伝的に短縮した品種を開発することが期待されます。そのことにより、シラスウナギまでの飼育期間が現在よりも大幅に短縮され、人工種苗の生産性が飛躍的に向上することで、天然集団に依存しない完全養殖技術の実用化が加速されることが期待されます。
[その他]
研究課題名:ウナギにおけるマーカー選抜育種の基盤となる遺伝的基礎情報の整備

研究期間:平成24年度〜平成28年度

予算区分:農林水産技術会議委託「天然資源に依存しない持続的な養殖生産技術の開発」

研究担当者:野村和晴、田中秀樹、今泉均、神保忠雄、尾崎照遵、藤原篤志、尾島信彦、中村洋路、甲斐渉

発表論文等:Kai W, Nomura K, Fujiwara A, Nakamura Y, Yasuike M, Ojima N, Masaoka T, Ozaki A, Kazeto Y, Gen K, Nagao J, Tanaka H, Kobayashi T, Ototake M (2014). A ddRAD-based genetic map and its integration with the genome assembly of Japanese eel (Anguilla japonica) provides insights into genome evolution after the teleost-specific genome duplication. BMC Genomics 15: 233.

[具体的データ]

図1. ニホンウナギの遺伝地図

A(赤色)は雌親側、B(青色)は雄親側の遺伝地図を示す。左側のスケールは遺伝的な距離(cM)を示している。Cは連鎖群1における雌親(赤色)と雄親(青色)の遺伝地図と、解読されたゲノム配列(真ん中の四角)との対応関係を示している。

図2. ニホンウナギの染色体像

ニホンウナギはゲノム1セットあたり19本の染色体数を有し、各染色体を1組ずつ持つ。




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