[背景・ねらい] アワビ類が餌の海藻をどのように消化するのかを知る上で、海藻に含まれるアルギン酸などの多糖類を分解する消化酵素の活性や、消化管内に生息する多糖分解性細菌の種類や数を明らかにすることは重要である。しかし、サンプル調製には消化盲嚢を切除するため測定に用いたアワビは生存できず、同一個体で継続的なモニタリングをすることができなかった。そこで本研究では、アワビを生かしたまま消化管内容液を継続的に採取する方法を開発するとともに、従来法で調製した肝膵臓抽出液の消化酵素活性及び細菌叢と比較することで、新手法の妥当性を検討した。
[成果の内容・特徴] 再現良く消化管内容液が採取できる水平方向の採取位置を検討した結果,殻長が最大となる線上で貝柱の辺縁から外套膜外縁までの中央部であることが示された。消化管内容液が採取され始める深度は内臓塊の厚さの41±2.8%からであることが明らかとなり,実際に採取する際は40〜50%の深度を目安に軽く陰圧をかけながら針を刺し,液が採取され始めた位置で針を固定し,ゆっくりと吸引することで針が内容物等で目詰まりすることなく,再現性のある採取が可能であった(図1)。新手法(DF)と従来法(DH)で消化酵素活性を比較した結果(図2)、アルギン酸リアーゼ比活性はDFが8.3±0.4,DHが2.1±0.5
U/mgであった。セルラーゼはDFが3.2±0.2,DHが2.0±0.2
U/mgであった。β-1,4-マンナナーゼはDFが1.7±0.03,DHが0.94±0.16
U/mgであった。全ての酵素においてDHよりもDFの比活性が高い結果が示された(Mann-Whitney U Test;
P<0.01)。DF及びDHの生菌数はそれぞれ1.0×107 CFU/mL と2.1×108
CFU/gでありDHのほうが有意に高かった(P<0.01 )が、細菌叢についてはVibrio
halioticoliやVibrio
ezuraeを優占種とする類似した細菌叢を示した(図3)。以上の結果から新手法の妥当性が示され、月1回のサンプリングを1年間行った全個体(n=6)が生存したことから、本手法の非致死性が確認された。
[成果の活用面・留意点] 同一個体から消化酵素活性の変化や細菌叢の変化を継続観察することが可能となったことから、アワビ類における消化機構の発達過程の解明への応用が期待される。また、消化管への感染により死亡を引き起こすキセノハリオチス症の非致死的な感染診断への応用についても検討を行っている。
[その他] 研究課題名:黒潮沿岸の岩礁域におけるアワビ類の初期減耗要因の把握
研究期間:平成18−22年
予算区分:運営費交付金
研究担当者:堀井豊充,
青野英明, 木村量, 黒木洋明, 片山知史, 丹羽健太郎
発表論文等:丹羽健太郎, 青野英明, 澤辺智雄(2012)
クロアワビの消化酵素活性と消化管内容液細菌叢モニタリングのための消化管内容液採取法, 日本水産学会誌, 78, 951-957. |