紫外線照射によるヒラメの不妊化技術の開発 |
海産養殖魚においては、海外への優良系統の流出防止、成熟による成長の停滞などの理由により不妊化技術が求められているが、実用的な技術は開発されていない。そこで、海産養殖魚であるヒラメの受精卵に紫外線を照射して不妊化個体の作出を試みた結果、60日齢時点で正常な生殖腺を欠く不妊化個体が得られた。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所 養殖技術部 繁殖グループ |
連絡先 |
Tel.0599-66-1830 |
推進会議名 |
水産増養殖関係 |
専門 |
増養殖技術 |
研究対象 |
魚類 |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい] 近年の養殖魚研究において、優良系統の流出防止、養殖魚の自然界への拡散防止及び、生殖腺の成熟にともなう商品価値の低下を防ぐ為に、配偶子(卵や精子)を持たない、あるいは生殖機能が不完全な魚を作り出す「不妊(稔)化」技術の開発が必要とされている。そのため、先行種として海産養殖魚であるヒラメを用いて、卵や精子の元になる生殖細胞を除去して不妊化する技術として紫外線(UV:Ultra
violet)照射を試みた。
[成果の内容・特徴] 紫外線(UV)を効率よく生殖細胞に作用させる為に、細胞数が少ない受精直後の受精卵に分子生物学実験で用いられるUVクロスリンカーを用いてUVを照射した。その結果、UV照射量が大きいほど孵化までの死亡率が高くなった一方で、生殖腺が観察可能となる孵化後60日目まで生存する個体も得られた。そこで、UV照射して得られた60日齢の稚魚において生殖腺が正常であるかどうかを組織学的に調べた。その結果、UVを照射していない対照区のヒラメ稚魚では全ての個体で生殖細胞を持つ正常な生殖腺が左右一対確認された。一方、UV照射群では正常な生殖腺が対照区同様に左右一対確認される個体の他、左右どちらか片方又は両方で確認されない変異個体が生じた。これらの変異個体では本来生殖腺がある場所には紐状の組織が存在し、組織学的・分子生物学的手法を用いた検証により紐状の組織は生殖細胞を欠失した生殖腺と考えられた。これらのことから、ヒラメ受精卵へUVを照射すると、生殖細胞が欠失した不妊化個体を得られることが示された。さらに効果的なUV照射の条件を検討する為に、胚の発生段階と照射エネルギー量が60日齢での不妊化率(生存個体のうち正常生殖腺を全く持たない個体の割合)に及ぼす影響を調べたところ、受精後4時間の受精卵に対する10mJ(UVの光量を示す単位)のUV照射が最も不妊化の効率が高く、65%の不妊化率が得られた。
[成果の活用面・留意点] UV照射は単純な操作により比較的低コストで実施が可能であり、安全・安心の面からも養殖現場へ導入しやすい不妊化技術と考えられる。しかしながら、ヒラメ以外の養殖魚へ効果があるかどうかは現段階では不明であることや、不妊化効率を高める為のさらなる照射条件の検討や他魚種での効果の確認が必要である。
[その他] 研究課題名:ヒラメの不妊化に向けた始原生殖細胞の移動の解析
海産養殖魚の受精卵への遺伝子導入法の開発
研究期間:H23-24、H25
予算区分:科学研究費補助研究、交付金(所内シーズ研究)
研究担当者:山口寿哉
発表論文等:なし
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[具体的データ] |
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