難培養性病原体に対するワクチンの開発 |
病原体の遺伝子情報を利用し、培養の困難な病原体(難培養性病原体)であるブリの細菌性溶血性黄疸に対する新しいワクチンの開発に成功した。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所 病害防除部 免疫グループ |
連絡先 |
Tel.0596-58-6438 |
推進会議名 |
水産増養殖関係 |
専門 |
病理 |
研究対象 |
魚類 |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい] 我が国で市販されている全ての水産用ワクチンは、培養した病原体を化学処理により毒性をなくした不活化ワクチンであり、ワクチン製造には病原体の大量培養が必要になる(図1)。魚類病原細菌は培養が困難(難培養性)なものが多く、ワクチン開発のネックとなっている。ブリ養殖で大きな被害を出している細菌性溶血性黄疸(以下、黄疸)も難培養性病原体により引き起こされる疾病であり、新たな技術の導入によるワクチン開発が期待されている。そこで、当研究グループでは、黄疸に対するワクチン開発を行うため、医学分野でも研究進捗が顕著なサブユニットワクチンに着目した。このワクチンは、生体の免疫反応に重要である病原体の抗原(感染防御抗原)を探索し、その感染防御抗原だけを大腸菌などで合成するため、難培養性病原体のワクチン開発に適している。
[成果の内容・特徴] サブユニットワクチンの作製方法を図2に示す。黄疸菌のゲノム情報を解読したところ、本菌には約1,500個の遺伝子が存在することが明らかになった。これらをコンピューター解析により、ワクチンの候補となる268種類の感染防御抗原遺伝子を選び出した。その遺伝子を大腸菌に組み込み、146種類の組換えタンパク質の合成に成功し、これらを抗原としてサブユニットワクチンを試作した。試作したサブユニットワクチンの有効性を確認するため、146種のワクチンをブリに接種し、3週間後に黄疸菌による攻撃試験を行い、有効性を検証しました。その結果、4種類のワクチンが死亡を有意に抑制することが示された(図3)。特にその一つは死亡率を0%に抑え、高い有効性を持っていた。
[成果の活用面・留意点] 細菌性溶血性黄疸の原因菌に対して有効性のあるサブユニットワクチンの作製に成功した。このワクチンは今後ワクチンメーカーと共同し、市販(実用・事業)化に向けて取り組む予定である。また、病原体を培養する必要がない本ワクチンの作成法は、今後ほかの難培養性病原体のワクチン開発にも応用可能になると期待される。
[その他] 研究課題名:遺伝子情報を利用した難培養性病原体に対するワクチン技術の開発
研究期間:平成22年〜平成24年度
予算区分:新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業
研究担当者:松山知正・高野倫一・坂井貴光・中易千早
共同研究機関:大分県農林水産研究指導センター水産研究部・東京海洋大学大学院ゲノム科学講座
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[具体的データ] |
図1.
従来のワクチン(不活化ワクチン)作製方法
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不活化ワクチンを作製するためには、病原体を大量に培養できることが条件になる。
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図2:
難培養性病原体に対するサブユニットワクチンの開発
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病原体の遺伝子情報からワクチンの有効成分となる感染
防御抗原をコードする遺伝子を探索し、その遺伝子を導入した大腸菌に目的タンパク質を合成させ、サブユニットワクチンを作成する
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図3.
試作ワクチンの有効性評価
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146種類のうち、4個の試作ワクチンで有効性が確認された。
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