ブリ天然種苗からの育種を可能にするための1塩基多型の同定
育種研究では様々な有用形質の育種が要望されるが、何世代もの交配による通常の選抜育種では、様々な経済形質について産業ニーズに応えることが難しい。天然遺伝資源から複数の優良形質について、高速に選抜する技術ができれば年月を大幅に短縮することができる。そこで、天然遺伝資源のあるブリにおいて、発現遺伝子の塩基配列解析を行い、高速な遺伝子型解析に使える1塩基多型を約14,000個同定した。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所玉城庁舎 養殖技術部 育種グループ 連絡先 Tel.0596-58-6411
推進会議名 水産増養殖関係 専門 水産遺伝育種 研究対象 ぶり 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
海産養殖魚類の中で、ブリ類は最も産業規模の大きい重要魚種であるにも関わらず、ブリ養殖は天然モジャコの採捕に頼っているのが現状で、感染症などによる経済的損失が大きな問題となっている。増養殖研究所育種グループは、西海区水産研究所資源生産部魚介類グループおよび東京海洋大学と共同で、ハダムシ抵抗性の家系をはじめとする有用形質を持つ家系を、天然遺伝資源(つまりモジャコなど)から効率よく探索することを目標に研究をしている。
[成果の内容・特徴]
野生魚のブリからハダムシ抵抗性の個体を見つけ、その遺伝子解析を遺伝子地図に載っている大量の1塩基多型を用いて最新機器(質量分析計やDNAチップ、リアルタイムPCR等)で解析することによって、どの遺伝子座のどの1塩基多型の組み合わせを持つとハダムシ抵抗性の性質を獲得できるのかを短期間で調べることが出来る。次に、同定された遺伝子座内の同じ組み合わせの1塩基多型を持つ個体を見つけてくれば、交配してハダムシ抵抗性の系統を作ることが可能となる。この様な1塩基多型による解析を実現するには、大量の1塩基多型を遺伝子地図上に載せる必要がある。そこで、我々はブリの発現遺伝子の中にある1塩基多型を見つけるため、500尾のブリ由来の大量の発現遺伝子の塩基配列の解析と得られた配列の比較を行い、遺伝子地図に載せられる候補の約14,000個の1塩基多型を見つけた。現在、得られた1塩基多型を持つ遺伝子の情報を遺伝子地図上に載せる作業を行っているところである。
[成果の活用面・留意点]
約10,000個の1塩基多型を用いて連鎖地図が詳細化できたら、高精度・短時間・大量解析に繋がる基盤が出来る。この育種技術は、同じブリ類であるカンパチやヒラマサにも応用できると期待される。 
[その他]
研究課題名:魚類天然資源から効率的に優良経済形質を選抜育種する技術の開発の研究

研究期間:平成21〜25年

予算区分:競争的資金、生研センター「イノベーション創出基礎研究推進事業」

研究担当者:荒木和男、尾崎照遵(増養殖研)、吉田 一範、津崎龍雄(西水研)

発表論文等:
[具体的データ]

天然ブリからの育種

有用な形質を持つ天然のブリの表現型と遺伝子(遺伝子座)を結びつけ、遺伝子の情報を利用して育種することを可能にするためには、迅速に大量の尾数のブリの遺伝子型を解析する必要があります。そこで、迅速な解析が可能な1塩基多型に注目した。

1塩基多型とは

ゲノム塩基配列中に一塩基が変異した多様性が見られ、その変異が集団内で1%以上 の頻度で見られる時、これを一塩基多型(いちえんきたけい、SNP : Single Nucleotide Polymorphism)と呼ぶ。

Digital PCRとは

特殊な集積回路チップと呼ばれるプレートを用いてリアルタイムPCR反応を行うことによって、96個のSNPsによる96尾のブリの遺伝子型の解析を1度に行うことが出来る。




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