コイ春ウイルス血症(SVC)のまん延リスク評価のための感染実験系の確立
コイ春ウイルス血症原因ウイルス(SVCV)の5株を錦鯉、野生型黒鯉、金魚に筋肉内注射して感染実験によりSVCVの病原性を検討した。錦鯉では5株、黒鯉では4株において死亡率が60%以上(6/10尾)に達して病原性を示した。死亡は接種後36日目まで確認され、体表に出血や心臓に血栓が確認された。黒鯉の1株ではSVCV原因による死亡は認められなかった。金魚は1株で試験したがSVCによる死亡は確認できなかった。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所 魚病診断・研修センター 魚病診断グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖関係 専門 病理 研究対象 ウイルス 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
国内未侵入の病原体のまん延防止策としてリスク評価をすることが世界的に重要視されてきている。コイ春ウイルス血症(SVC)はOIE(国際獣疫事務局)のリスト疾病の一つであり、日本への侵入が危惧され農林水産省令による特定疾病に認定されている。SVCに対する在来魚類への病原性の知見は乏しい。SVC原因ウイルス(SVCV)は遺伝子型により4型に分けられる。本研究ではコイやキンギョを用いて4つの型で感染試験を試み、SVCVに対する病原性について検討して、本症に対するリスク評価手法確立のためのデータを収集する。
[成果の内容・特徴]
SVC原因ウイルス(SVCV)は遺伝子型により4型(Ia, Ib, Ic, Id)に分けられる。本試験では、国内に侵入が危惧されているIa型(アジア株)から980548株を含む2つの株、その他の型からは1株ずつ、合計5つの株のSVCVを用いた(表1)。攻撃試験方法を検討するため、980548株を用いて、筋肉内に注射する方法、尾鰭にウイルス液を滴下する方法、ウイルス液に浸漬する方法の3法において、それぞれ、4尾のニシキゴイにウイルス投与をした。その結果、注射法と滴下法で高い死亡が認められた(表2)。本研究では、投与量が確定できる注射法を採用した。5つの株(表1)において、ニシキゴイと野生型クロゴイに対して、攻撃試験を行った。その結果、ニシキゴイでは5つの株、野生型クロゴイでは4つの株において死亡率が60%以上(6/10尾)に達して強い病原性を示した(図2)。死亡は接種後36日目まで確認され感染鯉の体表には出血や心臓に血栓が確認された(図1)。また、死亡魚からはウイルスが分離された。しかし、野生型クロゴイの2-90株の死亡魚からはウイルスが分離されなかったため、これらはSVCV原因による死亡が認められなかった。キンギョはワキンとリュウキンそれぞれにおいて、980548株の病原性を攻撃試験により検討した。リュウキンで死亡が認められた(図3)が、死亡魚からウイルスが分離されず、SVCVに起因する死亡では無かった。この結果、ニシキゴイ、SVC980548株を用いた感染実験系がリスク評価に適することが明らかとなった。
[成果の活用面・留意点]
本研究により得られた結果や検討した試験法等はSVCVのリスク評価のための基礎的な知見として重要であり、リスク評価に用いる感染試験系として今後応用してゆく。なお、SVCVに対する金魚への病原性に関しては、試験するSVCV株を増やしてさらに検討する必要性がある。
[その他]
研究課題名:コイ春ウイルス血症(SVC)のまん延リスク評価のための感染実験系の確立

研究期間:H22年度単年

予算区分:交付金プロジェクト

研究担当者:桐生 郁也、湯浅 啓、栗田 潤、西岡 豊弘、嶋原 佳子、大迫 典久

発表論文等:Distribution of spring viremia of carp virus (SVCV) in carp, 6th International Symposium on Aquatic Animal Health, p.187 〜 187 (2010).
[具体的データ]




[研究成果情報一覧] [研究情報]