アワビ類の増殖を目的とした人工投石漁場と天然漁場での長期生物相変動
アワビ類は資源減少が著しく、原因究明が求められている。そこで、アワビ類の増殖を目的とした人工投石漁場において、造成初期から生物相の調査を実施し、周辺の天然漁場と比較した。造成2年目以降、安定した海藻類の繁茂に伴ってアワビ類も含む植食性の動物にとって好適な環境へと変化した。アワビ類の資源回復には、大型海藻が繁茂できる環境を造成することが有効な方法であることが示された。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所横須賀庁舎 資源生産部 沿岸資源グループ 連絡先 Tel.046-856-2887
推進会議名 中央ブロック 専門 資源生態 研究対象 ベントス 分類 調査
「研究戦略」別表該当項目 1(3)水産生物の生育環境の管理・保全技術の開発
[背景・ねらい]
アワビ類は、種苗放流と人工投石等による生育場造成の両輪で増殖が図られているが、最近は資源の減少が著しく、その原因究明が強く求められている。天然アワビ資源が減少した海域でも、アワビ類の自然産卵と幼生は確認されていることから、その海域の生物相などの環境が、稚貝の生残に関与するものと推定されている。しかし、稚貝の生き残りに大きく関係する食害種や競合種を含めた生物相を長期的にモニタリングした研究はこれまでほとんど無かった。そこで、水研センターと神奈川県水産技術センターは相互に協力して、神奈川県横須賀市長井地先に造成された人工投石漁場と近隣の天然漁場の生物相を継続的に比較調査し、アワビ類の生残に関わる要因について検討した。
[成果の内容・特徴]
調査した人工漁場は、神奈川県三浦半島地区アワビ資源回復計画の一環として、2008年3月に天然漁場に隣接する深さ10 mの海底に、石材を投入して造成された(図1)。人工漁場と天然漁場において、コドラート法により、出現する生物種と生息密度を調べ、調査時期や漁場間での比較を行った。造成後の半年間は、人工漁場と天然漁場の生物相の類似度は低く、生物相は大きく異なっていたが、その後、人工漁場内では、時間の経過とともに出現する生物種が増加し、造成から1年半後には天然漁場とほぼ同じ生物環境となった(図2)。しかし、その間、人工漁場ではアワビ類稚貝は認められなかった。造成2年目以降は、人工漁場と天然漁場の生物相との類似度が再び低下しはじめ、異なる生物環境に再び変化したと考えられたが(図2)、人工漁場内では、アワビ類の稚貝が初めて確認できるようになった。人工漁場の他の貝類をみてみると、肉食性の巻貝類の密度変化は無かったが、時間が経つにつれ、アワビ類と同様に海藻類を食べる植食性の巻貝類の生息密度が増加した(図3)。アワビ類の餌となるカジメを中心とする大型の海藻類の群落も周年存在するようになった。以上の結果から、人工漁場の生物相は、海藻類の繁茂に伴ってアワビ類も含めた植食性の動物にとって好適な環境へと変化したと考えられる。アワビの資源回復を考えるうえで、餌となる大型海藻が繁茂できる環境を造成することは有効な方法の一つであることが示唆された。


[成果の活用面・留意点]
 アワビ増殖方策の策定、人工造成漁場の設計、管理、効果の判定等に活用できる。ただし、現在も生物相は変化を続けている状況であり、調査の継続が必要である。
[その他]
研究課題名:藻場の変動実態と原因の解明

研究期間:2011〜2015年度

予算区分:交付金

研究担当者:黒木洋明、早川淳(学振特別研究員)、薄浩則、渡辺一俊、張成年、山本敏博、丹羽健太郎

発表論文等:なし
[具体的データ]

図1

アワビ類の増殖を目指した投石による人工漁場

図2

人工漁場と天然漁場の類似度の経時変化

図3

人工漁場内での肉食性巻貝と植食性巻貝の経時変化




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