魚類養殖由来溶存態窒素のバイオフィルタとしてのアオサの有効性
魚類養殖由来の溶存態窒素を吸収するアオサ類の機能を把握するために,野外調査・実験を行った。五ヶ所湾で採取したアオサ類の窒素安定同位体比と窒素量は生簀から離れるに従い低下し,藻体による窒素の吸収が示唆された。この機能を実証するためにミナミアオサを養殖場内外で2週間培養した。養殖場での日間成長率と窒素固定率は対照区より有意に高く,バイオフィルタとしての本種の有用性が示された。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産システム部 増養殖システム研究グループ 連絡先 Tel.0599-66-1864
推進会議名 水産増養殖部会 専門 漁場環境 研究対象 他の藻類 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(3)水産生物の生育環境の管理・保全技術の開発
[背景・ねらい]
魚類養殖では生簀に投じられた飼料中の窒素の約50%が魚の尿などとなって環境中に拡散する。このような溶存無機態窒素(DIN)は植物プランクトンの増殖を促し,時には有害赤潮となって養殖に甚大な被害をもたらす。そこで,緑藻のアオサ類を用いて,養殖由来DINが漁場周辺に拡散する範囲を評価し,養殖由来DINを回収する方法を検討した。
[成果の内容・特徴]
1.五ヶ所湾のマダイ養殖生簀や漁場周辺の浮標などに着生しているアオサ類を2月,5月および7月に採取し,窒素安定同位体比と窒素量を測定した。いずれも投餌量が多い 5月と7月には生簀からの距離との間に有意の負の相関が認められた(図1)。

2.ミナミアオサを丸く切り抜いて,魚類養殖場内と対照地点で5月,7月および9月に2週間培養したところ,養殖場で培養したアオサの窒素安定同位体比と窒素量の値が対照地点より高くなった(図2)。このことは,養殖場のアオサが養殖魚から排泄されたDINを吸収・同化したことを示している。

3.魚類養殖場内と対照地点で2週間培養したミナミアオサの生長を比較した(図3)。日間生長率(SGR)は養殖場では13〜24%,対照地点では2〜20%であり,生長はいずれの月においても養殖場のアオサが勝った(図4左)。養殖場のアオサの窒素固定率は4〜14 mg N/g乾重/日であり,対照地点を4〜11 mg上回った(図4右)。


[成果の活用面・留意点]
1.アオサ類の窒素安定同位体比と窒素量を測定することにより,養殖由来DINの拡散範囲を推定でき,水質より鋭敏な生物指標として利用できる。

2.ミナミアオサの生長率は既知のどの複合養殖海藻より高く,しかも水温の高い夏季によく生長し,かつ培養が容易なので,魚類養殖場由来DINのバイオフィルタとして有望である。

3.ミナミアオサを魚類との複合養殖種として普及させるには本種の利用方法を開発し,経済的価値を付加する必要がある。


[その他]
研究課題名:海藻による魚類養殖由来溶存態窒素取り込みの実証と定量化

研究期間:H21

予算区分:所内プロ研

研究担当者:横山 壽,石樋由香

発表論文等:Yokoyama H, Ishihi Y. in press. Bioindicator and biofilter function of Ulva spp. (Chlorophyta) for dissolved inorganic nitrogen discharged from a coastal fish farm - potential role in integrated multi-trophic aquaculture. Aquaculture.
[具体的データ]




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