[背景・ねらい] ウナギは通常の飼育環境下では全く成熟せず,また,産卵前の天然親魚は日本近海では採捕されないため,受精卵を得るためには人為的に催熟を行う必要がある。これまでの技術開発により,計画的に受精卵を得ることはある程度可能となってきたが,その卵質(受精率,ふ化率等)は変動が非常に大きく,シラスウナギの人工生産技術開発を行う上での障害となっている。卵質には,催熟法,催熟前の養成方法等様々な要因が関係しているが,それらの要因の中で卵質と卵に含まれる栄養成分との関係に着目し,良質卵における栄養成分の特性について調べた。
[成果の内容・特徴] さまざまな親魚から得られた卵の質(受精率,ふ化率,摂餌開始時の生残率等)と,卵の栄養成分(脂質,ビタミン等)の含量を測定し,これらの間の関係を調べた。卵の水溶性のビタミンC(VC)含量は,親魚ごとのバラツキが大きく,受精率との相関は見られないが,ふ化率,生残率との間に正の相関が見られ,良質卵はVC含量が高いことが分かった(図1)。一方,脂溶性であるビタミンA(VA)やビタミンE(VE)は,VCに比べバラツキが少ないが,その含量が少なくても,多くても,卵質が低下する傾向があることが分かった(図2)。また,脂質含量が多いと卵質が低くなる傾向があり,かつ,脂質とVEの比と卵質との間に正の相関がみられたことから,卵においてVEが抗酸化成分として重要な役割をもつことが示唆された。
[成果の活用面・留意点] 本研究で得られた良質卵の栄養成分特性を,親魚の栄養条件の改善によるウナギの卵質向上技術開発のための指標として活用している(表1)。しかしながら,卵質は親魚の栄養条件以外の養成法,催熟法等の要因によっても影響を受けるため,ウナギの卵質向上のためには,総合的な技術開発が必要である。
[その他] 研究課題名:良質卵の成分特性の解明とそれに基づく親魚養成法の改善
研究期間:H17-23
予算区分:ウナギの種苗生産技術の開発
研究担当者:古板博文,山本剛史,松成宏之
発表論文等:H.
Furuita, T. Unuma, K. Nomura, H. Tanaka, T. Sugita, T. Yamamoto (2009)
Vitamin contents of eggs that produce larvae showing high survival rate in
the Japanese eel Anguilla japonica. Aquac. Res. 40, 1270-1278
H.
Furuita, T. Unuma, K. Nomura, H. Tanaka, K. Okuzawa, T. Sugita, T.
Yamamoto (2006) Lipid and fatty acid composition of eggs producing larvae
with high survival rate in the Japanese eel Anguilla japonica T.&S. J.
Fish.Biol., 69, 1178-1189.
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