免疫磁気ビーズを用いた新しい冷水病菌検出法の開発
市販化されたワクチンがない現状では、冷水病の発症予防対策として、放流種苗の保菌検査は特に重要です。そこで、より高精度な保菌検査のために、冷水病菌だけを簡便で高感度に検出できる新しい冷水病菌検出法の開発を試みました。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 病害防除部 健康管理研究グループ 連絡先 Tel.0596-58-6411
推進会議名 水産増養殖部会 専門 病理 研究対象 あゆ 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
冷水病は多くの都道府県のアユ及びサケ科魚類で問題となっており、本症対策が各水産試験場及び漁連から強く求められています。市販化されたワクチンがない現状では、冷水病の発症予防対策として、放流種苗の保菌検査は特に重要です。しかし、保菌検査おいて陰性であった群を隔離飼育した場合でも、その後冷水病を発症する事例があり、「アユ冷水病対策協議会」の取りまとめにおいても、現行における保菌検査の検出感度(検出限界)の低さを解決すべき問題として指摘しています。また河川の水や底泥等の環境中からの菌検出は確立しておらず、検出手法の改良が必要と考えられています。そこで、我々は、雑菌やゴミなどの不純物を多く含み、かつ冷水病菌がほんの僅かしか存在しない場合でも、冷水病菌だけを簡便で高感度に検出できる免疫磁気ビーズを用いた新しい冷水病菌検出法の開発を試みました。
[成果の内容・特徴]
免疫磁気ビーズとPCRを組み合わせた冷水病菌検出法の概要を、図1に示します。次に、この免疫磁気ビーズ法と従来法を比較した結果、免疫磁気ビーズ法は、従来法に比べて検出限界レベルを百倍改善できることがわかりました(図2)。このことから、本免疫磁気ビーズを利用することにより、高感度な冷水病菌検出が可能であることを確認しました。
[成果の活用面・留意点]
この成果をもとに、都道府県の水産試験場と連携し、実際のアユ種苗の保菌検査へ適用し、 より精度の高い冷水病菌フリー種苗(冷水病菌を全く保菌しないアユ種苗)の作製を可能にする研究を進めています。また、本検出法は、保菌検査のみならず、河川の水、底泥、付着珪藻等の環境中からの菌検出へも適用できることから、 河川での冷水病菌の疫学調査やモニタリングも可能になると考えています。今後、これらの研究を促進することで、河川における冷水病の発生を防除できると期待しています。
[その他]
研究課題名:

研究期間:

予算区分:

研究担当者:吉浦康寿・乙竹充(水産総合研究センター)、

発表論文等:大原健一・景山哲史・桑田知宣・海野徹也・古澤修一・吉浦康寿 (2009): リアルタイム

PCRを用いたアユ冷水病魚におけるFlavobacterium psychrophilumの定量性の検討. 日本

水産学会誌, 75: 258-260、吉浦康寿・乙竹 充:免疫磁気ビーズを用いた高感度な冷水病原因菌検出法の開発(平成21年度日本魚病学会大会)、吉浦康寿(2009)免疫磁気ビーズを用いた新しい冷水病菌検出法の開発 機関誌ぜんない 第14号 p14
[具体的データ]

図1.免疫磁気ビーズとPCRを組み合わせた冷水病菌検出法の概要

1)死亡したアユ、放流アユ種苗、河川の検査試料2)免疫磁気ビーズを添加し、冷水病菌を捕捉3)冷水病菌以外の菌、ゴミを除去4)冷水病菌を濃縮5)濃縮した冷水病菌から菌のDNA抽出6)PCRで遺伝子を増幅7)電気泳動で増幅した遺伝子を検出


図2.免疫磁気ビーズ法による冷水病菌の検出限界

冷水病菌培養液を段階希釈し、検出限界レベルを従来法と免疫磁気ビーズ法と比較した。従来法では1,000倍希釈液までバンドが検出されたが、免疫磁気ビーズ法では、100,000倍希釈(従来法に比べて100倍、感度が高い)までバンドが検出された







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