キリキリ舞いを呈するカンパチ疾病の原因の解明
10年以上前から養殖カンパチがキリキリ舞いを呈して死亡する疾病が知られていた。ここ数年我が国での本疾病による被害が増加したため,本疾病の病理組織学的,分子生物学的研究を行い,本疾病が中枢神経に感染する微胞子虫によるものであることを解明するとともに,当該微胞子虫の遺伝子のクローニングに成功し,本微胞子虫を検出・診断するためのPCRプライマーを設計した。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 病害防除部 病原体制御研究グループ 連絡先 Tel.0596-58-6479
推進会議名 水産増養殖部会 専門 病理 研究対象 魚類 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
現在日本のカンパチ養殖では種苗のほぼ全てを中国に依存しているが,10年以上前から,種苗の集積地や日本の養殖場において本疾病が確認されていた。罹患種苗は除かれてから日本に出荷されるため,これまで大きな問題にはなってこなかったが,昨年および今年は日本の養殖場における発症率が高く,問題になっている。しかし,これまで本疾病に関する研究はあまりなされておらず,原因も不明であることから,本疾病に対する有効な対策をたてることは困難な状況であった。
[成果の内容・特徴]
キリキリ舞い症状を呈する病魚の各臓器の病理組織学的観察を行ったところ,延髄を中心として中枢神経系に激しい炎症が認められた。他の臓器には顕著な異常は見られなかった。炎症部位の神経細胞や軸索には微胞子虫と思われる寄生体が観察され,Uvitex2Bによる蛍光観察によって,微胞子虫のものと考えられる胞子が多数確認された。そこで既知の微胞子虫のリボソームRNA遺伝子の共通配列を利用して,病魚の脳から当該遺伝子のクローニングを行った。得られた遺伝子が目的の微胞子虫のものであることは,特異的と思われる配列を用いたプローブを設計し,in situ hybridizationを行って確認した。遺伝子配列の解析から,この微胞子虫はアンコウを宿主とするSpraguea属の微胞子虫に近縁であるが,これまで未報告のものであることが判明した。さらに,当該遺伝子に対するPCR用のプライマーを設計した。外見的に健康なカンパチの脳からは本PCRによる遺伝子増幅は無く,病理組織学的異常も観察されなかった。しかし,キリキリ舞い症状を示す病魚の脳からはPCRによって予想される分子量の遺伝子増幅が確認された。以上から,本疾病は延髄に寄生する微胞子虫が原因であることがほぼ明らかとなった。延髄には運動に関係する神経細胞が多数存在するといわれることから,これらの神経細胞が障害を受け,罹患魚が異常な運動を示すものと考えられる。
[成果の活用面・留意点]
いったん微胞子虫に感染した魚類を治癒させる方法はいまのところないが,今回,原因となる微胞子虫を検出するPCRプライマーを開発できたので,これを利用して早期に疾病の診断を行い,重篤な感染群を排除することが可能であると考えられる。したがって今後は症状が現れていない段階で感染の診断が可能であるか否かを調べる必要がある。
[その他]
研究課題名:

研究期間:2008〜2009

予算区分:受託経費(魚類防疫対策事業費)

研究担当者:三輪 理・釜石隆・西岡豊弘(養殖研)・平江多績・村瀬拓也(鹿児島県水技センター)

発表論文等:H21日本魚病学会大会講演要旨集p18
[具体的データ]




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