適正給餌量評価法の開発
養殖魚への適正給餌は飼料コスト低減と環境保全に寄与する。当グループは給餌の適正性を評価するため炭素・窒素安定同位体比を用いて海面養殖場における沈降物と堆積物中に含まれる残餌と糞を定量した。さらに,堆積物中の残餌量が多かったことから過剰給餌が疑われた養殖場において給餌量を2割削減した現場実験を行い,マダイの成長に悪影響がなく,環境インパクトが低減したことを確認した。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産システム部 増養殖システム研究グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖部会 専門 漁場環境 研究対象 たい 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(3)水産生物の生育環境の管理・保全技術の開発
[背景・ねらい]
海面魚類養殖場では多量の有機物が集中的に負荷されるので,有機汚濁が進行しやすい。適正給餌量を把握し,残餌を最小限に止めることがその対策として有効である。環境中での残餌と糞の定量は給餌量の適正性の評価に必要であるが,これまでその方法がなかった。そこで,当研究グループは堆積物と沈降物の中に含まれる残餌と糞の定量法を開発し,過剰給餌の恐れがある養殖場において養殖魚と環境に及ぼす給餌量削減の効果を評価した。
[成果の内容・特徴]
養殖場での沈降物や堆積物中の有機物は残餌,養殖魚の糞および自然有機物(主に海洋植物プランクトン)の混合物であり,これら3者の炭素・窒素安定同位体比がそれぞれ異なれば,沈降物や堆積物の炭素・窒素安定同位体比測定により,全有機物に占める残餌と糞の割合を求めることができる(図1)。五ヶ所湾におけるマダイ養殖場の堆積物中には残餌が糞より2.4倍多く含まれていた(図2)ことから,過剰給餌の可能性が高いと判断し,養殖業者に給餌量を2割削減して当歳マダイを養殖し,マダイの成長や死亡率および環境への負荷を比較する現場実験を提案した。9ヶ月間のモニタリングにより次の結果を得た。1) 通常給餌区と比べ制限給餌区ではマダイの成長に有意の差はなく(図3a),餌料効率は制限給餌区(0.62)が通常給餌区(0.54)を上回った。2) 制限給餌区における累積死亡数は通常給餌区の44%に止まった(図3b)。3)制限給餌生簀下の堆積物中の残餌量は通常給餌区より有意に少なかった(図3c)。これらの結果は制限給餌が餌料コストの低減,養殖魚の死亡率低下および環境へのインパクトの低減に寄与したことを示している。
[成果の活用面・留意点]
本手法により残餌や糞の拡散範囲と堆積物中への蓄積量を把握でき,魚類養殖が周辺環境に及ぼす影響の範囲と程度の判定が可能となる。さらに,堆積物や沈降物中での残餌と糞の相対的割合により給餌量の適正性を評価でき,養殖漁場の環境管理と養殖経営の改善に寄与する。炭素・窒素安定同位体比測定には高度の機器と知識が必要であるので,本手法の現場への普及には測定体制の構築が必要である。
[その他]
研究課題名:海面養殖場における適正養殖量推定に関する研究

研究期間:H18-H22

予算区分:一般研究

研究担当者:阿保勝之,高志利宣,石樋由香,日向野純也,藤岡義三,横山 寿

発表論文等:Yokoyama H, Takashi T, Ishihi Y, Abo K (in press) Effects of restricted feeding on growth of red sea bream and sedimentation of aquaculture wastes. Aquaculture
[具体的データ]



図1 堆積物中有機物に占める残餌と魚糞の割合の求め方。例えば,Stn. 20の堆積物中の有機物に占める残餌の割合は{b/(a+b)}×100%,糞の割合は{d/(c+d)}×100%となる




図2 五ヶ所湾のマダイ養殖場内外の堆積物中有機物に占める(a)残餌と(b)養殖マダイの糞の割合。黒点は調査地点,細長い長方形は生簀列を示す




図3 通常給餌区と制限給餌区におけるマダイの(a)成長,(b)累積死亡尾数,および(c)生簀直下堆積物中の残餌由来窒素量






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