養殖エビのストレス評価法の開発 |
養殖しているエビのストレス状態を診断して飼育方法の改善に役立てるため、ストレスを評価する方法の開発に取り組んだ。ストレス評価に使う指標として、病気への抵抗力に関係する生体防御関連物質の遺伝子発現量を検討した。その結果、菌成分の注射、絶食、ハンドリング及び塩分変化といったストレスに対して一部の遺伝子の発現量が変化し、ストレス状態を表す指標として利用できることが示された。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産技術部 繁殖研究グループ |
連絡先 |
Tel.0599-66-1830 |
推進会議名 |
水産増養殖部会 |
専門 |
魚介類繁殖 |
研究対象 |
他のえび類 |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい] エビ養殖では、環境変化やハンドリングなどのストレスから成長不良や生体防御能低下を起こして歩留まりが低下しやすい。現在は摂餌状況や死亡個体の増加などからエビの状態を判断しているが、より客観的にストレス状態を診断できれば早めに対策を立てられるようになる。本研究では、ストレス下で病気に対する抵抗力が低下することに注目して生体防御関連物質の遺伝子発現量を指標の候補とした。ストレス下での遺伝子発現量の変化を調べ、ストレス状態を表す指標として利用できるか検討した。
[成果の内容・特徴] 研究対象のエビとして世界的に広く養殖されているバナメイを用いた。生体防御関連因子として、抗菌物質のペネイジン、クラスチン及びリゾチーム、そして異物質排除に関わるフェノロキシダーゼ前駆体とそれを活性化させるセリンプロテアーゼを選んだ。公開されている遺伝子データベースから各物質の塩基配列を調べてプライマーを設計し、定量PCRで血球中の遺伝子発現量を測定した。(1)ストレスの飼育実験として、まず菌体成分(大腸菌のリポポリサッカライド(LPS))を注射して影響を調べた。注射後4時間でペネイジンとクラスチンの発現量が減少し、24時間後には元に戻った(図1)。一方、フェノロキシダーゼ前駆体の発現量は変化しなかった。LPSが多いほど、注射4時間後のペネイジンの発現量低下が大きくなった(図2)。(2)絶食下では、ペネイジン、クラスチン及びフェノロキシダーゼ前駆体の発現量が増加する傾向が見られた。(3)ハンドリングを与えると、ペネイジンの発現量が低下したが逆にフェノロキシダーゼ前駆体の発現量は増加した。(4)低塩分にすると、ペネイジンの発現量が低下した。以上から、ストレスにより生体防御関連物質の遺伝子発現量が変化し、生体防御能が影響を受けることがわかった。逆に、ストレスで変化する生体防御関連物質の遺伝子発現量を調べれば、ストレスの程度を推定できると考えられる。
[成果の活用面・留意点] 養殖しているエビのストレスを診断したいときに、生体防御関連物質の遺伝子発現量を調べることでストレス状態を評価できる。遺伝子発現量の測定にはリアルタイムPCR機が必要となる。
[その他] 研究課題名:エビ(バナメイ)のストレス評価・低減技術の開発
研究期間:H16-H20
予算区分:生研センター委託事業
研究担当者:奥村卓二
発表論文等:Okumura
T, (2007) Effects of lipopolysaccharide on gene expression of
antimicrobial peptides (penaeidins and crustin), serine proteinase and
prophenoloxidase in haemocytes of the Pacific white shrimp, Litopenaeus
vannamei. Fish and Shellfish Immunology, 22: 68-76. |
[具体的データ] |
図1.リポポリサッカライド投与後のバナメイの生体防御関連遺伝子発現の経時的変化
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リポポリサッカライドをバナメイ(体重12-19g)に注射して4、24、72時間後に採血した。血液からtotal
RNAを抽出して逆転写定量PCRでmRNA量を測定した。星印は注射前との有意差及び対照区と注射区の間の有意差を示す。
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図2.リポポリサッカライドがバナメイの生体防御関連遺伝子の発現に及ぼす影響
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リポポリサッカライドをバナメイ(体重12-19g)に注射して4時間後に採血した。血液からtotal
RNAを抽出後、逆転写定量PCRでmRNA量を測定した。星印は対照との有意差を示す。
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