分子遺伝学的手法によるアコヤガイの類縁関係の推定とこれを利用した種判別手法の開発 |
アコヤガイ属各種の核及びミトコンドリアDNAのrRNA遺伝子塩基配列情報を蓄積し,これを元に類縁関係を推定した。これらの遺伝学的知見は遺伝資源の探索や新品種作出に利用できる。また,アコヤガイ種苗とアコヤガイ近縁種種苗の混入防止や雑種種苗の確認,自然水域におけるアコヤガイ近縁種の存在とアコヤガイとの交雑を確認できる,DNAマーカーによるアコヤガイ属各種の種判別手法を開発した。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所玉城分室 生産技術部 育種研究グループ |
連絡先 |
Tel.0596-58-6411 |
推進会議名 |
水産増養殖部会 |
専門 |
水産遺伝育種 |
研究対象 |
あこやがい |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい] アコヤガイ属は遺伝学的情報が少なく分類も統一されていないことから,遺伝資源の探索や新品種作出に貢献するため,アコヤガイ属の類縁関係を推定する。また,種苗用に外国産アコヤガイ近縁種が国内に導入されていることから,適正な種苗生産や資源管理のため,アコヤガイ種苗とアコヤガイ近縁種種苗の混入防止や交雑種苗の確認,自然水域におけるアコヤガイ近縁種の存在とアコヤガイとの交雑を確認できる,種判別手法を開発する。
[成果の内容・特徴] 核及びミトコンドリアDNAのrRNA遺伝子塩基配列情報を元にアコヤガイ属の類縁関係を推定したところ,アコヤガイ属は遺伝的に,1.シロチョウガイ,2.クロチョウガイ,3.Pinctada
sp.(タイワンアオリガイ?),4.モスソアコヤガイとムラサキチョウガイ,5.ミドリアオリガイ,6.アコヤガイ,P.
radiataおよびメキシコアコヤガイの6種・グループに分けられた(図1)。また,西太平洋に分布するアコヤガイと,インド洋に分布するP.
radiataおよび大西洋に分布するメキシコアコヤガイはそれぞれ遺伝的に分化していた(図1)。一方,西太平洋の各産地のアコヤガイではほとんど遺伝的分化がみられなかった。これらの知見から,核rRNA遺伝子のITS領域を用い,PCRによる上記種・グループをそれぞれ判別する手法を開発した(図2)。さらに,核rRNA遺伝子のIGS領域および,ミトコンドリアDNAの16SrRNA遺伝子領域を用い,PCR及びPCR-RFLPによるアコヤガイとP.
radiataおよびメキシコアコヤガイをそれぞれ判別する手法を開発した(図3)。
[成果の活用面・留意点] 推定したアコヤガイの遺伝的類縁関係は,アコヤガイの遺伝資源の把握や新品種作出に利用でき,遺伝資源の保存や探索,雑種強勢を利用した交雑育種への応用が期待される。また,種判別手法はアコヤガイと近縁種の種苗の混入防止や雑種種苗の確認,自然水域におけるアコヤガイ近縁種の動態の推定等に利用できる。
[その他] 研究課題名:遺伝変異分析法の高度化と遺伝的多様性等の評価/分子マーカーによるアコヤ貝育種支援技術の開発
研究期間:平成13-17/平成19-21
予算区分:交付金(一般研究)/JST重点地域研究開発推進プログラム(研究開発資源活用型)
研究担当者:原 素之,正岡哲治/正岡哲治
発表論文等:Tetsuji
Masaoka and Takanori Kobayashi. Species identification of Pinctada
imbricata using intergenic spacer of nuclear ribosomal RNA genes and
mitochondrial 16S ribosomal RNA gene regions. Fisheries Science,
71:p837-846, 2005. |
[具体的データ] |
図1 アコヤガイ属の類縁関係
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28S
rRNA遺伝子の塩基配列情報を元にアコヤガイ属の類縁関係を推定した。遺伝的に6つの種・グループに分けられ,グループ6の3種も遺伝的分化(6A,6B,6C)がみられるが,西太平洋各産地のアコヤガイ(6C)間では遺伝的分化がみられない。
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図2 ITSを利用したアコヤガイ属の種判別
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各プライマーセット(S,K,MO,MI,A)を用いたPCRで,1.シロチョウガイ,2.クロチョウガイ,3.モスソアコヤガイとムラサキチョウガイ,4.ミドリアオリガイ,5.アコヤガイとP.
radiata及びメキシコアコヤガイを判別できる。 | |
図3 アコヤガイとP.
radiata,メキシコアコヤガイの種判別
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核rRNA遺伝子のIGS領域を利用したPCR-RFLPによる種判別。Aはアコヤガイ(1-10),BはP.
radiata(11-15),CとDはメキシコアコヤガイ(16-20)で,バンドパターンの比較により,それぞれの種を判別できる。
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