元気に育つウナギ卵を遺伝子で見分ける−健全なウナギ種苗の生産に向けて新たな一歩−
ウナギ未受精卵中の良質卵関連遺伝子の単離に成功した。さらに、マイクロアレイ法(スライドガラス上で遺伝子の量や種類を一度に調べる方法)を用い、未受精卵中の良質卵関連遺伝子の蓄積量や種類の異常を一度に検出できる技術を開発した。本知見及び技術は、得られた卵が元気に育つかどうかを受精前に明らかにできる画期的な卵質診断技術として種苗生産現場への応用が期待できる。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産技術部 繁殖研究グループ 連絡先 Tel.0596-58-6411
推進会議名 水産増養殖部会 専門 魚介類繁殖 研究対象 うなぎ 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
養殖研究所では、世界で初めて受精卵から養殖種苗となるシラスウナギまでの人工飼育に成功した。しかし、現状では仔魚の生残率は極めて低い。その原因の一つに、仔魚期に高い頻度でみられる様々な形態異常があげられる(図1)。これらの異常は、卵質、飼料、飼育環境等の様々な要因によって引き起こされると考えられているが、その発生機構についてはほとんどわかっていない。近年、発生学の分野では、核遺伝子とは別に未受精卵の中に含まれる母親由来の遺伝子(mRNAで構成され、母性効果遺伝子と呼ばれる)が、受精後の体の形づくりに非常に重要であることが明らかとなっている。したがって、ウナギの形態異常を解明するにあたって、この母性効果遺伝子は有効な指標となりうる。本研究では、母性効果遺伝子のうち「ウナギ仔魚が元気で育つ卵に多く含まれる遺伝子(良質卵関連遺伝子と命名)」の単離を行った。これら遺伝子の単離によって、ウナギ卵由来の形態異常発生原因の解明やそれに基づいた新たな卵質診断技術の開発が可能となると考えられ、ひいては仔魚の生残率の向上に繋がるものと期待できる。
[成果の内容・特徴]
人為催熟によって得たウナギの未受精卵を一部保存し、残りを用いて人工授精を行った。受精後10日目まで飼育を行い、形態異常が少ない群を「良い卵」、形態異常が多い群を「悪い卵」とした。「良い卵」と「悪い卵」の由来となるウナギ未受精卵を用いサブトラクション法により、両者の母性効果遺伝子の間で量的に差のある遺伝子、すなわち良質卵関連遺伝子の単離を試みた。その結果「良い卵」に多く含まれている約1200種類の良質卵関連遺伝子を単離した。さらにマイクロアレイ法を用い、別のウナギ親魚由来の「良い卵」と「悪い卵」を用いて、両者の間で量に差のある良質卵関連遺伝子を調べた(図2)。その結果、「良い卵」と比較し「悪い卵」では、14種類の良質卵関連遺伝子の量が半分以下に減少していた(表1)。これら結果は、形態異常が出現する「悪い卵」では、特定の良質卵関連遺伝子の量が少ない可能性を示すものであり、未受精卵の段階での卵の良し悪しを診断できる可能性が示唆された。
[成果の活用面・留意点]
本方法は、学術的な利用価値だけでなく、増養殖対象魚種の卵質診断技術、人為催熟時の卵質改善技術など、広範な用途に利用可能である。今後は、良質卵関連遺伝子量の低下とそれぞれの異常との関連性を調べ、卵質診断技術としての本法の適応性や限界性を検証することが必要である。
[その他]
研究課題名:ウナギ仔魚期における形態異常の発生原因解明とその防除

研究期間:平成17〜20年度

予算区分:農林水産技術会議委託プロジェクト研究

研究担当者:玄 浩一郎

発表論文等:水生生物の卵質の遺伝子診断法、特願 2006-354773 
[具体的データ]

図1.ウナギの仔魚期にみられる形態異常

(A)正常な個体(B)上顎が短くなった異常個体


図2.マイクロアレイ法による卵質診断

DNAチップには、1200種類の良質卵関連遺伝子が点状に貼り付けてある。図中の緑色に検出された良質卵関連遺伝子は、良い卵と比較して悪い卵で遺伝子量が相対的に低いことを示す。

表1.悪い卵で遺伝子量が少なかった良質卵関連遺伝子


悪い卵/良い卵(%)は、良い卵の遺伝子量を100としたときの相対比率を示す。 注)「遺伝子の種類」は相同性がある程度認められた遺伝子の名称を記したものであり、その機能については不明である。






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