ヒラメ仔稚魚の感染・昇温処理によるVHSへの免疫獲得 |
ウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV)感染抵抗性の獲得を指標として、ヒラメでは全長30〜50mmの成長段階で、生体防御システムに何らかの成熟が起こることを示した。モノクローナル抗体を用いた末梢血白血球組成の解析から、全長30〜50mmの成長段階での、VHSV感染抵抗性獲得にはリンパ球の成熟あるいは増加が必要と考えられた。
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担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 病害防除部 健康管理研究グループ |
連絡先 |
Tel.0599-66-1830 |
推進会議名 |
水産増養殖部会 |
専門 |
病理 |
研究対象 |
魚類 |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい] ヒラメのVHS感染症において、成魚を用いて20℃で感染試験を行った場合、15℃での感染試験と比較して死亡は著しく減少する。また、20℃でVHSVに浸漬したヒラメは15℃でのVHSV再感染に対して強い抵抗性を示す。本研究ではVHSV感染症をモデルとし、20℃でのVHSV感染による免疫獲得を指標としてヒラメにおける獲得免疫の成熟時期の推定を行った。また、モノクローナル抗体を用いて仔稚魚期における末梢血白血球の発生分化を分析し、VHSVに対する免疫獲得と、生体防御機構の発達との関連を考察した。
[成果の内容・特徴] 仔魚期から全長30mmまでの稚魚では、水温20℃においてもVHSVに感受性を示し、約半数がVHSV感染により死亡した。生残魚を用いた再感染試験においても死亡率は高く、この成長段階の仔稚魚では感染抵抗性を殆ど獲得していなかった。全長50mmの稚魚では、水温20℃での感染試験では全く死亡は観察されず、水温15℃での再感染試験においても、水温20℃での1度目の感染試験を経験した魚は殆ど死亡しなかった(死亡率2.5%)。全長100mm以上では、水温20℃での感染試験においても、その後の再感染試験においても全く死亡は観察されなかった。このことから、全長30〜50
mmの成長段階で、ヒラメの生体防御システムに成熟が起こり、強い感染防御活性が付与されると考えられた。
モノクローナル抗体を用いて仔稚魚期における末梢血白血球組成を解析した結果、リンパ球を認識する抗体に反応する細胞は存在せず、仔魚期ではリンパ球が存在しないか未熟であると考えられた。一方で、仔魚では食細胞の比率が極めて高く、非特異的生体防御機構に依存していると考えられた。リンパ球に反応する抗体2種に陽性を示す細胞は、全長22.5mmおよび33.0mmで始めた観察され、成長に伴って出現率が急速に増加した。リンパ球の出現・増加時期はVHSV感染抵抗性の獲得時期と一致しており、抵抗性の獲得にはリンパ球系の細胞が働いている可能性が考えられた。
[成果の活用面・留意点] 成長の初期にワクチンを投与することができれば、感染症による初期減耗を抑制できる。一方、免疫系の未発達な仔稚魚にワクチンを投与しても、十分な防御効果は発揮されない。従って、高い防御効果が期待できる最低成長段階を特定する必要がある。今回の研究で、ヒラメでは全長30〜50
mmの成長段階で生体防御システムに成熟が起こることが明らかとなり、ワクチン投与に必要な最低魚体サイズが示された。
[その他] 研究課題名:ヒラメ仔稚魚の感染・昇温処理によるVHSへの免疫獲得
研究期間:平成16年度〜平成18年度
予算区分:交付金プロジェクト
研究担当者:佐野元彦・栗田 潤・中易千早・松山知正
発表論文等:なし
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[具体的データ] |
感染実験による抵抗性獲得成長段階の特定
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感染試験の結果から、平均全長30.3mmの稚魚は感染抵抗性を獲得しなかった。平均全長50.9mmでは、成魚とほぼ同様のVHS抵抗性を示した。全長30〜50mmの成長段階で、ヒラメの生体防御システムに何らかの成熟が起こると考えられた。
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末梢血白血球組成
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Mab7陽性細胞は発生初期では末梢血中に多く出現し、成長に伴って出現率が低下。Mab60陽性率は成長段階に関係なく一定だった。sIgM陽性細胞は全長33.0
mmで、Mab69陽性細胞は全長22.5 mmで出現し、成長に伴って急増した。
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リンパ球の成熟と感染防御
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感染実験の結果から、全長30〜50mmで生体防御システムに成熟が起こると考えられた。この時期はリンパ球(Mab69,
sIgM陽性細胞)の出現・増加時期と一致する。感染耐過による抵抗性の獲得にはリンパ球系の細胞が働いていると思われる。
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