魚類養殖場における海水中の細菌群集組成の変動解明
 魚類養殖漁場における有機物汚染を評価するための指標として,海水中の細菌群集に着目し,三重県五カ所湾のマダイ養殖場において細菌群集組成を調べた。その結果、表層水中の細菌群集組成は、冬季を除いて対照水域と違いが見られ、養殖漁場に特徴的に出現する細菌種(遺伝子)を検出することができた。また成層期の底層水中では,細菌群集組成が飼育魚の糞粒により影響を受けていることが示された。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産システム部 増養殖システム研究グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖部会 専門 漁場環境 研究対象 微生物 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 2(2)適正飼育環境の解明と好適生産環境の制御技術の開発
[背景・ねらい]
 養殖漁場の自家汚染(給餌や過密飼育等の養殖活動に伴う環境汚染)は、養殖業を営む上で長年大きな問題となっている。1999年には「持続的養殖生産確保法」が制定され,漁協等が各々の漁場について環境保全のための対策を講じることとなっている。

 漁場環境を保全する上で,漁場の汚染状況を客観的に判断するための指標が必要である。養殖場の自家汚染は,窒素やリン等の栄養塩類が漁場に蓄積することによる富栄養化、即ち有機物循環機構の変化が原因である。海中の有機物循環には微生物群集が深く関係している。しかし,養殖漁場における微生物の動態は充分明らかになってはいない。また、微生物の生態学は遺伝子工学の発展により急速に進展しているが、水産分野における応用はまだ進んでいない。

 そこで本研究では,三重県五カ所湾のマダイ養殖漁場において海水中の細菌群集組成を非培養的な手法で解析し、養殖活動が漁場海水中の細菌群集組成に与える影響を明らかにすることを目的とした。


[成果の内容・特徴]
 養殖漁場の表層水中から採取された細菌の種類(遺伝子)は,多くが対照水域と共通のものであった。特に冬季は養殖漁場と対照水域の群集組成はほぼ同じであった。しかし春から秋にかけては,養殖漁場に特徴的な種類(遺伝子)が幾つか検出された(図1)。

 養殖漁場の表層水と底層水について、細菌群集組成と水温及び水中の有機物濃度等の環境因子との関係を解析した結果、初夏から秋季にかけての底層水では、細菌群集組成と炭素/窒素比の高い粒子状有機物、即ち養殖魚の糞粒と関係があることが示された(図2)。


[成果の活用面・留意点]
 養殖の影響を強く受けている細菌種(遺伝子)の情報が得られた。これらの種類の細菌についてその動態をより詳しく研究することで,漁場の有機物汚染の状況を判断するための新たな指標が得られる可能性がある。
[その他]
研究課題名:五ヶ所湾をモデルとした養殖漁場の有機炭素及び主要栄養塩類の季節分布と相互関係の解明        

研究期間 :平成13〜17年度

予算区分 :一般研究

研究担当者:坂見知子

[具体的データ]




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