[背景・ねらい] 近年、我々養殖研究所では、ウナギの人工ふ化仔魚を成魚にまで育成することに世界で初めて成功した。しかしながら、現在の種苗生産技術では、特に幼生期における生残率が極めて低く、人工種苗を養殖用種苗として実用化するためには、現状よりも卵や仔魚の質を向上させる技術の開発が不可欠である。幼生期における減耗要因の一つとして、仔魚の遺伝的な健全性を疑い、調査したところ、通常の二倍体以外の個体(倍数性変異個体)がしばしば認められ、そのことがふ化率低下や仔魚の生残率の低下の一因であることが明らかとなった。本課題は、このような倍数性変異現象の原因を解明し、健全な仔魚を作出しうる種苗生産技術の開発に資することを目的とした。
[成果の内容・特徴] ウナギ人工種苗に見られる倍数性変異個体の8割以上が三倍体(正常個体の1.5倍量のゲノム量を持つ)であった。これらの変異個体についてDNAマーカーを用いた遺伝解析を行ったところ、すべての個体が「父親側から1セットと母親側から2セット」のゲノムを受け継いでいることが明らかとなった。さらに、母親由来の遺伝子型の伝達の仕方から、「正常な第一減数分裂を経た後、第二減数分裂の異常で母親由来のゲノムが倍加」していることが明らかとなった。また、卵が排卵されてから受精までの経過時間が長くなるほど、正常な第二減数分裂ステージにある卵の割合が減少し、倍数性変異個体が増加することが明らかとなった(図1)。
[成果の活用面・留意点] ウナギ人工種苗に生じる倍数性変異現象の発生メカニズムや誘発条件が明らかとなり、具体的な対策を講じることが可能となった。倍数性変異を防除する技術を開発することにより、ウナギ人工種苗の質の向上に繋がることが期待される。他魚種でも同様の現象が報告されていることから、各種養殖対象魚種への応用がなされ、種苗の健全化に繋がることが期待される。
[その他] 研究課題名:ウナギ仔魚に生じる倍数性変異の発生原因解明と防除手法の開発
研究期間 :平成18年(平成17年〜平成20年)
予算区分 :農林水産技術会議事務局受託事業(ウナギ・イセエビの種苗生産技術の開発費)
研究担当者:野村 和晴(養殖研究所・生産技術部・繁殖研究グループ)太田 博巳(近畿大学農学部・水産学科・水産増殖学研究室)
発表論文等:
1)Nomura,
K., Morishima, K., Tanaka, H., Unuma, T., Okuzawa, K., Ohta, H., Arai,
K.(2006) Microsatellite-centromere mapping in the Japanese eel (Anguilla
japonica) by half-tetrad analysis using induced triploid families.
Aquaculture 257, 53-67. |