アユ冷水病菌Flavobacterium
psychrophilumの遺伝子型の判別法 |
冷水病菌は,未同定の290bp遺伝子断片の多型により,2種類の遺伝子型(A型およびB型)に分けられることが報告されている。本研究ではこの290
bp断片がある種の酵素の遺伝子の一部であることを同定し,これを標的として新たなPCRを確立した。このPCRによって冷水病菌株でのみ特異的な増幅が確認され,確実なA,B型の判定が可能となった。さらに,A型菌で作製したワクチンはB型菌にも有効であった。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 病害防除部 健康管理研究グループ |
連絡先 |
Tel.0596-58-6411 |
推進会議名 |
水産増養殖部会 |
専門 |
病理 |
研究対象 |
あゆ |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
2(2)病原体の制御及び宿主機能活用による病害予防技術の開発 |
[背景・ねらい] アユの冷水病の防除対策に向けて,まず冷水病菌Flavobacterium
psychrophilumの感染伝播経路および河川での動態を把握するための疫学的調査が必要となっている。これまで冷水病菌の疫学マーカーとして,ジャイレースB遺伝子を標的としたPCRに付随して増幅される290
bp断片に多型があり,それによって本菌は2種類の遺伝子型(A型およびB型)に分けられること,またA型はアユ由来菌株にのみ認められることが報告されている。しかし,本断片が如何なる遺伝子の一部であるかは不明である。また,本断片の検出は,縮重プライマーが用いられているため不安定である。さらに遺伝子型を特定する部位がプライマーの近傍にあるため,変異部位を標的とした新たなプライマーを設計することが困難である。このように,本断片を特異的かつ安定的に増幅するPCRが確立されていないことから,この290
bp断片は疫学マーカーとして有用であるにも関わらず,利用しにくいのが現状である。そこで本研究では,290
bp断片の近傍の塩基配列を決定し,この断片を含む遺伝子領域を同定した。そして,本塩基配列をもとに新たなプライマーを設計して遺伝子型判別法の改良を行った。さらに,遺伝子型と抗原性の関連についても検討した。
[成果の内容・特徴] 新たに作製したPCR(表1)を用いると冷水病菌でのみ特異的な増幅が確認され,近縁種およびその他の魚病細菌では増幅が認められなかった
(図1)。またA型(図2)はアユ由来の冷水病菌にのみ認められる遺伝子型であることが再確認された。さらに,A型菌で作製したワクチンはB型菌にも有効であることがわかった(図3)。なお,この遺伝子がコードするアミノ酸配列は細菌由来の既知の異性化酵素(peptidyl-prolyl
cistrans isomerase C)と相同性を示した。
[成果の活用面・留意点] 魚病細菌を検査対象とした場合には,本PCRにより冷水病菌を特異的に検出できると考えられる。環境由来細菌についても,これまでに冷水病菌以外の菌で本PCRに陽性を示すものは認めていないが,Flavobacterium属の細菌は魚病細菌以外にも土壌や水圏の環境中に数多く存在しており,それらの多くが未同定であることから,環境由来の分離菌株および
DNA試料を鋳型として本PCRを行った場合,冷水病菌以外の本属の細菌に対して陽性反応が起こる可能性がある。
[その他] 研究課題名:ワクチン株の物理的化学的試験とワクチンの作成
研究期間:平成16年〜平成18年
予算区分:先端技術を活用した農林水産研究高度化事業
研究担当者:松山知正,吉浦康寿,中易千早,乙竹 充
発表論文等:魚病研究41(2)67-71(2006)、月刊養殖43(3)74-77
(2006)、平成17年度日本魚病学会大会講演要旨44 (2005) |
[具体的データ] |
<b>表1 新しく確立したPCRの組成と反応条件</b>

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初期変性として95℃1分間、続いて95℃15秒間、60℃30秒間、72℃30秒間を35-40サイクル行った。
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 <b>図1 新たに確立したPCR系の特異性</b>
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冷水病菌のみ、バンドが検出され(左図左)、近縁種(左図右)および他の魚病細菌では増幅が認められなかった。
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 <b>図2 PCR増幅産物の<i>Hin</i>f
I消化断片の違いによる遺伝子型の解析</b>
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電気泳動像(右図)および各遺伝子型の<i>Hin</i>f I
siteの位置と断片マップ(下図)。A型には切断部位が2つ存在し,63, 129,
154bpの3断片になる。B型は切断部位が1つ存在し,192, 154bpの2断片になる。
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 <b>図3 B型菌に対するA型菌ワクチンの有効性</b>
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人為的にB型菌による冷水病に感染させたところ、免疫していない区は80%近くの魚が死亡したが、A型で作製したワクチンで免疫した区では死亡は20%以下であった。
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