アルテミアの系統的差異とその利用 |
同じ系統(種)のアルテミアでも移植等により産地が変わると,孵化所要時間,孵化サイズや成長,脂肪酸組成等の生物学的特徴が大きく変化する。しかし餌料価を決定する際の大きな要因の一つであるDHAからEPAへの逆変換など栄養に関わる生理特性に関しては,変化しない可能性が高い。 |
担当者名 |
独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産システム部 飼餌料研究グループ |
連絡先 |
Tel.0599-66-1845 |
推進会議名 |
水産養殖部会 |
専門 |
魚類栄養 |
研究対象 |
動物プランクトン |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
2(2)飼料及び生産物品質向上技術の確立 |
[背景・ねらい] 近年,移植による新たなアルテミア産地の開発が盛んに行われ,そこで生産された耐久卵製品が国内にも多く輸入され始めている。本研究では,世界各地に移植されたアルテミアが有する原産地株との相違点と相同点を明らかにすることによって,それらの有効利用の考える際の注意点を明らかにする。
[成果の内容・特徴] 産地の異なる6株のアルテミアを用い,それらの生物学的特徴の相違と移植による影響の有無を,卵および幼生の形態と,最も重要な栄養成分のひとつである脂肪酸の組成から予備的に検討した。
1.中国福建産(CFJ),2.中国天津産(CTJ):移植されたA.
franciscana,3.中国臣新疆ウイグル自治区産(CSU),4.カザフスタン産(KZS),5.ボリビア産(BLV):移植されたA.
franciscana,6.米国ユタ州グレートソルトレーク産(GSL):原産地のA.
franciscana
耐久卵の卵径は,同じA.
franciscanaでも天津株が他の二株より少し大きかった。また孵化幼生の大きさも天津株が他の二株より少し大きかった。孵化24時間後の幼生サイズの比較では,ボリビア株だけは他より小さく,また大小の個体差があった。孵化に要する時間では,ボリビア株を除きどの株も孵化管理開始12時間後からアンブレラ期幼生が出現し,
15-18時間で50%程度が孵化した。孵化完了に要する時間は22-24時間前後であったが,ボリビア株はこの時点でも50%程度しか孵化せず,更に数時間を要した。DHAからEPAへの逆変換(レトロコンバージョン)強度の比較のため,強化3時間および9時間後の脂肪酸組成の比較を行った。新疆ウイグル株(A.
sinica)とA. franciscanaの比較では,A. sinicaのDHA保持能は高かったが,A.
franciscanaではDHAの割合が経時的に減少した。また天津産の移植されたA.
franciscanaと原産地のユタ株の比較では,孵化幼生の脂肪酸組成が異なっていたにもかかわらずDHAの保持能に差はなかった。すなわち,DHAからEPAへの逆変換などの代謝生理特性は,生育環境などの後天的な影響を受けない種特異的なものである可能性が高い。
[成果の活用面・留意点] 各事業所で使用しているアルテミアの株,および生産地の正確な情報及び生物学的特徴を的確に把握することは,その有効活用を考える際には重要であり,また種苗の生産成績にも大きな影響を及ぼしうる。
[その他] 研究課題名:
研究期間:
予算区分:経常研究費
研究担当者:吉松隆夫
発表論文等:平成16年度水産養殖関係試験研究推進特別部会「養殖基盤部会」シンポジウムでの講演,平成17年度日本水産学会大会での口頭発表,アクアネット,8(12),
2005に論文掲載。 |
[具体的データ] |
図1 6株のアルテミアの耐久卵径と孵化直後の幼生サイズ。
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n=50。産地の略語表記は本文参照。バー上部のアルファベットの文字が同じ場合は5%の危険率で有意差なし。
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図2 6株のアルテミアの孵化24時間後の幼生体長の比較。
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n=30。産地の略語表記は本文参照。バー上部のアルファベットの文字が同じ場合は5%の危険率で有意差なし。水温28℃で無給餌。
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図3 6株のアルテミア耐久卵の孵化に要する時間の比較。
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産地の略語表記は本文参照。孵化管理条件は未脱殻,水温28℃,全海水(33psu),2000lux,強通気。
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表 強化後のアルテミアの清浄海水中でのDHA/EPAの経時変化
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産地の略語表記は本文参照。総脂質中の脂肪酸組成(area%)。2回測定の平均値。水温18-20℃。
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