アユ冷水病の病理と死因
アユ冷水病原因菌,Fravobacterium psychrophilum,は体表の微細な傷から感染すること,また感染した冷水病菌はコラーゲン性結合組織や筋肉中で増殖し,炎症を形成することを明らかにした。さらに冷水病罹患アユの直接の死因は患部からの急速な出血による失血死であることが示唆された。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 病害防除部 病原体制御研究グループ 連絡先 Tel.0596-58-6411
推進会議名 水産養殖部会 専門 病理 研究対象 あゆ 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 2(2)病原体の制御及び宿主機能活用による病害予防技術の開発
[背景・ねらい]
アユ冷水病は,長年わが国の内水面漁業を悩ましてきた疾病であるが,これまで原因菌が,魚体のどこから感染し,いかにしてアユに疾病を引き起こすのか,また,感染したアユはなぜ死ぬのかといった病理学的研究はほとんど行われてこなかった。本研究は冷水病研究でこれまで欠けていたこのような基礎的側面を明らかにすることを目的として行った。
[成果の内容・特徴]
(1)アユの体表に,肉眼ではわからない程度のかすかな擦過傷を作り,冷水病菌に浸漬感染させることで,天然アユと同様の体表の潰瘍病変を再現する実験系を確立した。この系を用いて実験感染を行い,免疫組織学的に菌の動態を解析した。その結果,擦過傷部位に潰瘍病変が形成されること,また人為的に擦過傷を作らなくとも,ほとんどの飼育アユでは下あごに顕微鏡レベルの擦過傷があり,これらが主たる感染門戸になっていることが判明した。さらに注射感染させた場合には,外部病変がほとんど形成されないことがわかった。また,瀕死魚や死魚はしばしば他個体に魚体をついばまれていた。

(2)感染魚の血液量やヘマトクリット値を測定し,これらが死亡直前に急激に減少することを明らかにした。再生不良性貧血や溶血性貧血が考えられないことから,潰瘍病変から急速な失血が生じていることが示唆された。
[成果の活用面・留意点]
本研究の結果から,理想的には体表にまったく外傷が無ければ冷水病菌には感染しないと考えられる。したがって

(1)防疫上アユに外傷を作らせないことが重要であるといえる。特に個体間の攻撃行動を抑えるため,飼育あるいは移動中も極力群れでまとまって泳がせる等の工夫が必要である。

(2)2次感染を防ぐため,病魚や死魚を速やかに取り去ることが当然ながら重要である。
[その他]
研究課題名:アユ冷水病等における病原体の動態解析

研究期間:平成13〜17年度

予算区分:一般研究(経常)

研究担当者:三輪 理・中易千早

発表論文等:

(1)三輪 理・中易千早 (2004)実験感染冷水病の病理。 平成16年度日本魚病学会講演要旨p56.

(2)S.Miwa and C.Nakayasu (2005) Pathogenesis of experimentally induced bacterial cold water disease in ayu Plecoglossus altivelis. Diseases of Aquatic Organisms (in press)
[具体的データ]

図1

綿棒で体表にごく軽い擦過傷を作り,冷水病菌に浸漬感染することによって擦過傷部位に形成された潰瘍状病変。


図2

冷水病菌に浸漬した直後のアユの皮膚の断面の顕微鏡写真。冷水病菌は免疫組織化学法で赤茶色に見える。正常な皮膚は結合組織の上に上皮がかぶさっているが,右側の,上皮がはげている部分には冷水病菌が感染している。


図3

冷水病菌に実験感染させたアユの筋肉組織の病理組織像。冷水病菌は写真中央をななめに横切っている筋隔壁と呼ばれる結合組織中に点々と見える(矢印)。HE染色。


図4

冷水病実験感染アユの血液量と赤血球量。青いひし形は健康な対照群。ピンクの四角は冷水病菌を感染させたアユ。オレンジの三角は瀕死状態(腹を上にしてただよう状態)の冷水病感染アユ。瀕死魚ではヘマトクリット,血液量とも明らかに低下している。





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