[背景・ねらい] [ねらい・目的]雄ヘテロ型の性染色体をもつ魚類の全雌生産には、遺伝的には雌でありながら、機能的には雄である、いわゆる”偽♂”の作出が不可欠となる(図1)。サケ科魚類においては合成ステロイドの使用により偽♂作出が可能であるが、環境および魚に対する安全性を考えると、合成ステロイドに依存しない新しい偽♂作出技術の早急な確立が望まれる。これまで多くの魚種で性分化期の育成環境、特に水温により性が決定される例が報告されている。そこで本研究では、サケ科魚類における偽♂作出のための新技術開発の一環として、ヒメマスを用いて性決定に及ぼす飼育水温の影響を調べた。なお、本研究は中禅寺湖漁業協同組合の協力をえて、栃木県水産試験場との共同研究として実施した。[成果の特徴]・雌性発生により作出された全雌ヒメマスから、17αメチルテストステロン処理により得た偽♂と通常体♀との媒精により全雌を作出し供試魚とした(図2)。・孵化開始直前(受精後57日目、以下57dpf)または孵化完了直後(78dpf)に飼育水温を9℃から18℃へ上昇させ(図3)、それぞれ浮上後63日目まで18℃に維持した2つの群において精巣を持った個体の出現が確認された(図4)。・57dpf群では85.7%、78dpf群では40%の個体の生殖腺が精巣として発達した(表1)。・排精個体から得た精液を使って作出した次世代(F1)の発眼率は92%であった。・本研究において、初期生活期の高水温処理による雄性化(遺伝的雌から機能的雄への性転換)が可能であることがサケ科魚類において初めて確認された。
[成果の内容・特徴]
[成果の活用面・留意点] 飼育水温を制御することにより、安全かつ簡易な方法でヒメマス偽♂を作出できることが明らかとなり、環境や魚に優しい全雌生産技術の実用化に向け、新たな展望が開けた。
[その他]
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