アユ冷水病対策としての薬浴法の検討
- [要約]
- 養殖のみならず天然水域においても被害が急増しているアユ冷水病の対策として、種苗を無菌化する事によって被害の軽減を図ることを目的に、薬浴による防除手法の開発を行ったところ、塩化ナトリウムを1%添加したスルフィソゾール薬浴が有効である可能性が示唆された。
養殖研究所・病理部・上席研究官 病原生物研究室
[連絡先] 0596-58-6411
[推進会議] 水産養殖
[専門] 病理
[対象] あゆ
[分類] 研究
- [背景・ねらい]
- 近年、アユの養殖及び放流事業において冷水病による被害が急増し、放流事業においては、その漁獲高の大幅な減少等により、漁協の経営にも影響を及ぼす事態となっている。この原因の一つとして、種苗の一部に保菌魚の存在が疑われていることから、疾病の伝播防止や制圧のためには、冷水病菌フリーの種苗とすることが必要となってきた。現在、冷水病に対するワクチン開発などの研究は精力的に行われているが、緊急対策として薬剤による直接的な殺菌の可能性について検討を行った。
- [成果の内容・特徴]
- スルフィソゾールと塩化ナトリウムの併用によって、冷水病菌に対する相乗的な殺菌効果が試験管内試験で明らかとなった。この結果をもとに、アユ成魚を用いて塩化ナトリウム1%添加した飼育水に種々の濃度のスルフィソゾールを加えてその毒性を検討したところ、400ppm、4時間までは毒性は認められなかったが、800ppm、4時間では横転する個体が観察された。また、アユ血中へのスルフィソゾールの吸収は、塩化ナトリウムを1%添加した場合、無添加に比べて約2倍であった。
- 冷水病に感染していると考えられた稚魚を用いて薬浴実験(1%塩化ナトリウム、400ppmスルフィソゾール薬浴2日間)を行ったところ、50日後まで冷水病の発病は観察されなかったのに対し、無処理の対照区では20日目から冷水病による死亡が発生し、50日後まで死亡が継続した。このことから、薬浴によって稚魚の体表、鰓などの冷水病菌が殺菌されるとともに、薬浴終了後は冷水病菌フリーの地下水を用いて飼育したために再発もなく推移したものと考えられた。
- [成果の活用面・留意点]
- 薬浴終了後の薬浴液の天然水域への廃棄は、耐性菌の発生や環境への影響などが考えられるため、回収方法を開発する必要がある。また、スルフィソゾールの400ppmという濃度は、成魚に毒性の現れない最大投与量であるため、稚魚のためのより低濃度で、安全、かつ効果的な投与条件の決定や、薬浴処理後の減耗を最小限にするため、塩化ナトリウムを添加した薬浴液から淡水への馴致方法の改良が必要であり、これらの手法を開発する事によって、実用化への道が開けるものと考えられる。
- [具体的データ]
- 淡水と1%塩化ナトリウム水におけるスルフィソゾールの吸収
- 培養液中における塩化ナトリウムとスルフィソゾールの冷水病菌に対する相乗効果
[その他]
課題名 :薬浴による薬剤吸収に関与する要因の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成10年度(平成6〜10年度)
研究担当者:池田和夫・瀬川 勲
発表論文等:瀬川勲・池田和夫;冷水病原因菌における塩化ナトリウムとスルフィソゾー
ルの併用効果、平成11年日本魚病学会春季大会講演要旨 p40, 1999
[研究成果情報一覧]
[研究情報]