アユ、ウナギ精子の運動能力の制御方法


[要約]
水産重要種であるアユとウナギの精子の運動能力の獲得とその維持は,輸精管内のカリウムと重炭酸イオンの濃度とpHにより制御されていることを明らかにした。生体外でこれらの条件を再現することにより,運動活性の低い精子の改良や,活性の高い精子を効率的に冷蔵保存する技術が開発された。

養殖研究所・繁殖生理部・繁殖技術研究室
[連絡先]  05996-6-1830
[推進会議]  水産養殖
[専門]    魚介類繁殖
[対象]    アユ・ウナギ
[分類]    研究

[背景・ねらい]
人工受精に用いる精子の質的変動は,種苗生産の成否を左右する大きな要因の一つとなる。精子の受精能力は運動能力と高い相関を示すことが知られており,運動能力を制御する技術の開発は人工受精や育種作業の基本技術の一つとして重要である。本研究は,淡水や海水で希釈しても運動しない精子に運動能力を与えるとともに,それを長時間維持する技術の開発を目的として実験を行い,精子を取り巻くイオン環境の変化により運動能力が獲得,あるいは喪失される現象を明らかにした。

[成果の内容・特徴]

  1. アユ,ウナギの精子は精巣に充満する精子を取り出して環境水(アユでは淡水,ウナギ では海水)で希釈しても運動せず,精巣から輸精管に移動し,精子を取り巻く外部環境 が精巣内液から精漿に変わることにより運動能力を獲得した。
  2. これらの精巣精子を精漿のイオン組成を模した人工精漿中で2時間培養し,運動能力の 変化を調べたところ,Kイオンと重炭酸イオンの濃度に比例して運動能力を獲得した  (図1)。
  3. 一旦運動能力を獲得した精子は,上記2種のイオン濃度のいずれかを低下させると,短 時間の内に運動能力を失い,その比率は両イオンの濃度に依存していた(図2図3)  
  4. これら2種のイオンによる運動能力の獲得・維持作用は,ウナギではpHに依存せず起こ り,アユではpH 8.0-9.0の範囲でのみ有効であった(図4)。

[成果の活用面・留意点]
アユ,ウナギの精巣に充満する大量の未熟な精巣精子を,短時間で受精可能にするとともに,運動能力を獲得した精子の冷蔵保存にも応用可能な機構が明らかにされた。また,生殖口から採取した精子をKと重炭酸イオン濃度を調製した溶液で培養することにより,任意の運動能力を持つ精子に加工することも可能となった。今後,精巣精子が既に運動能を持つ他の多くの魚種についても精子の運動能力獲得のメカニズムを明らかにし,より広範な魚種における制御方法を検討していく必要がある。

[具体的データ]
 図1.アユ精巣精子の運動能力の獲得に必要なイオン環境  
 図2.ウナギ精子をK濃度の異なる溶液で培養した時の運動能の変化  
 図3.ウナギ精子を重炭酸濃度の異なる溶液で培養した時の運動能の変化  
 図4.アユ精巣精子の運動能力の獲得に及ぼすpHの影響

[その他]
研究課題名:生体外培養による機能的精子作出技術の開発
予算区分 :連携開発研究(水産生物育種の効率化基礎技術の開発)
研究期間 :平成9〜14年度
研究担当者:太田博巳・鵜沼辰哉・香川浩彦・田中秀樹
発表論文等:1) イオン環境の変化によるアユ精子の運動能の獲得と喪失,平成10年度日本水産学会春季大会講要,p.61,1998.
      2) アユ精子の運動開始を導く外部環境の変化,平成10年度日本水産学会秋季大会講要,p.58,1998. 3) In vitro control of Japanese eelspermatozoa motility by manipulation of the enivronmental ionic concentration.  Proc. 6th Int. Symp. Reprod. Physiol. Fish., Bergen, 1999, (印刷中).

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