アコヤガイ赤変病の原因細菌と推定されたスピロヘータの疫学的解析 |
これまでにアコヤガイ赤変病の原因細菌と推定したスピロヘータに対して定量系を構築し、本細菌の病貝体内での組織分布と、体内での量的変動を解析した。組織分布と季節変化はいずれも、過去の感染試験および養殖現場の疫学解析で予測された病原体の動態とよく一致し、赤変病の原因をスピロヘータとする推定の確かさを裏付けた。確立した本細菌の定量手法は、本病の診断等に利用できる。 |
担当者名 |
国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所 魚病研究センター 免疫グループ |
連絡先 |
Tel.0599-66-1830 |
推進会議名 |
水産増養殖関係 |
専門 |
病理 |
研究対象 |
あこやがい |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい]
アコヤガイを用いた真珠養殖は1990年代に発生した赤変病により壊滅的打撃を受けた。耐病性育種等により被害は減少したが現在でも本病は発生している。原因として様々な説が提唱されたが、特定されていなかった。我々はこれまでに、原因を細菌であるスピロヘータの一種と推定している。本研究では、本細菌を定量する手法を確立し、本菌の病貝体内での組織分布を調査した。また、感染試験を実施するとともに、本病発生海域で飼育したアコヤガイを定期的に採取し、体内での本細菌の量的な変動を解析した。
[成果の内容・特徴]
本細菌は病貝の外套膜、閉殻筋や血リンパ液に多く分布しており、心臓、中腸腺や血球等には少なく、過去に感染試験により予測された病原体の分布と類似した。病貝の血リンパ液を接種した感染試験では、本細菌は増加を続けた。死亡は、感染8週間後から始まり実験終了時まで継続した。季節変化の解析では、水温が20℃を超える頃から菌数が増加し、9月頃に最多となった。水温が20℃を下回る頃には本細菌数は減少に転じた。養殖海域でのアコヤガイの死亡は、本細菌数が最多となる9月前後に多発した。本細菌の動態も、感染試験等により予測されていた病原体の動態と類似していた。また、本病が発生していない海域のアコヤガイからは、本細菌の遺伝子は検出されなかった。これらの結果は、赤変病の原因をスピロヘータとする推定の確かさを裏付ける。また、本病の発症の基準である閉殻筋の赤色度は、菌数の増減に遅れて変動していた。
[成果の活用面・留意点]
本病の原因をスピロヘータとする我々の推定を支持する結果が得られた。赤変病の発症は、主症状でる軟体部の赤色化から診断されてきたが、本研究で確立した定量PCR系を用いることで、直接病原体の検出および定量が可能となり、より正確な診断が可能となった。また、本病発生海域で飼育したアコヤガイの定期的な解析では、本細菌の増減に遅れて赤色度が変化することが示された。赤色度は、何らかの代謝産物の蓄積によると考えられており、本指標が病原体の動態に遅れることは理にかなっている。軟体部の赤色化は目視で確認できる便利な指標だが,病徴と必ずしも直結しない可能性があることに留意すべきと考えられた。
[その他]
研究課題名:革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)
研究期間:2016-2020
予算区分:委託費
研究担当者:松山知正・高野倫一・中易千早・安池元重・藤原篤志・中村洋二・正岡哲治
発表論文等:T. Matsuyama et al., (2019). Spatiotemporal dynamics of Spirochaeta, the putative etiologic agent of Akoya oyster disease in pearl oysters, as determined by quantitative PCR. Aquaculture, 734433.
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[具体的データ] |
スピロヘータ遺伝子のアコヤガイ体内での分布
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本スピロヘータは閉殻筋、血リンパ液、外套膜に多く分布していた。異なるアルファベットの組み合わせは有意差を示す。
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推定された病原細菌とスピロヘータ門基準種の16SrRNA遺伝子に基づいた系統樹
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推定された病原細菌はBrachyspira属と近縁だが明らかに別系統である。枝上の数値はその枝の信頼性の指標で、大きいほど信頼性が高い。
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感染試験における死亡と血リンパ液中のスピロヘータ数の変動
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(A):累積死亡率の推移。実線は病貝の血リンパ液を接種した感染群、点線は健康貝の血リンパ液を接種した対照群を示す。(B):2週間おきに採材して血リンパ液中の本細菌数を定量した。丸は各個体の実測値、横棒は中央値を示す。
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真珠養殖海域に飼育したアコヤガイの血リンパ液中のスピロヘータ遺伝子、閉殻筋の赤色度と水温の季節変化
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白棒は閉殻筋の赤色度、黒棒は血リンパ液中のスピロヘータ遺伝子コピー数の5個体の中央値と標準誤差を、点線グラフは水温を示す。実線折れグラフは同海域で飼育した本病に感受性の高い系統の生残率を数値とともに示す。
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