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ニホンウナギのレプトセファルス(仔魚)期間の長さは遺伝する
・ニホンウナギの仔魚期間の長さが遺伝することを実験的に明らかにしました。 ・このことは選抜育種により仔魚期間を短縮した品種作出が可能であることを示しています。 ・育種により仔魚期を短縮することで人工種苗生産技術の早期実用化へ貢献することが期待されます。
担当者名 国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所 ウナギ種苗量産研究センター 量産基盤グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖関係 専門 水産遺伝育種 研究対象 うなぎ 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
 水産研究・教育機構では、2010年、人工生産したシラスウナギを親魚にまで育てて人為的に成熟させて人工第二世代を作り出すこと(完全養殖)に成功し ましたが、大量生産技術は開発途上にあります。シラスウナギの大量生産を阻んでいる要因の一つとして、卵からふ化した仔魚(レプトセファルス)がシラスウ ナギに変態を始めるまでの期間(仔魚期間)が非常に長いことがあげられます。天然環境下では孵化後110-170日程度、人工飼育下では孵化後 160-450日程度かかります。これまでは、主に飼育技術や初期餌料の改良によって、仔魚期間における飼育コストの低減や生存・成長率の向上に取り組ん できましたが、全く別の研究アプローチも望まれていました。
[成果の内容・特徴]
 今回我々は、ニホンウナギの大規模な交配試験と遺伝解析により、仔魚期間の長さが親から子に遺伝することを明らかにしました。このことは、選抜育種によ る遺伝的改良によって、従来よりも短い飼育期間でシラスウナギに変態する品種が作出できることを示しています。今回の研究過程で選抜された親候補ウナギを 用いて、ニホンウナギの育種に取り組み始めました。早ければ2019年度に第一世代の仔魚が作出される予定です。その後は、毎世代で選抜と交配を繰り返 し、徐々に遺伝的改良を積み重ねることで、10-15年後に仔魚期間を20-40%短縮した早期変態品種の作出を目指します。なお、この育種過程で得られ る仔魚は、適宜、様々な試験研究に提供され、人工種苗生産技術の早期実用化へ貢献することが期待されます。
[成果の活用面・留意点]
 現在、水産研究・教育機構では、今回作出した大規模な交配に由来する人工集団を用いて、仔魚期間を遺伝的に短縮した早期変態品種の開発を始めました。従 来からの取り組みである1)安定採卵技術、2)仔魚飼育技術、3)飼料開発に加え、新たに4)育種を活用することにより、人工種苗生産技術の実用化が少し でも早く達成されることを期待しています。
[その他]
研究課題名:「ニホンウナギの家魚化に向けたゲノム育種技術の開発(委託プロ等)」

研究期間: 平成30年度(平成28年度-平成30年度)

予算区分: 農研機構生研支援センター委託費

研究担当者: 野村和晴(増養殖研究所ウナギ種苗量産研究センター)

発表論文等: PLOS ONE、13(8)、e0201784、2018年

[具体的データ]

図1. 実験デザインの概略.

ニホンウナギの雌14尾と雄11尾を用いて、114通りの組み合わせで交配し、一腹ごとに飼育した。シラスウナギに変態開始した時の日齢や体サイズなどの表現型を記録し、DNAマーカーを用いて親子鑑定。遺伝モデルを作成し、遺伝的パラメータを推定した。
表1. マイクロサテライトDNAマーカー10座による親子鑑定結果.


810個体のうち、86通りの親魚の組み合わせに由来する746個体分の家系構造を明らかにした。

図1. 家系ごとの変態開始時日齢の分布.

親子鑑定で明らかとなった家系ごとに変態開始時の日齢をプロットした図。黒い点は平均、バーは標準誤差を示す。
表2. 推定された遺伝的パラメータ.


仔魚期間の長さ(変態開始時日齢)の遺伝率は0.41と推定され、親の選抜によって子の遺伝的改良が十分に可能な水準であることが明らかになった。




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