マクロベントスによる魚類養殖場の環境診断法の開発


[要約]
「持続的養殖生産確保法」の環境基準となっている堆積物の硫化物量と酸素消費速度を五ヶ所湾の魚類養殖場で測定し,指標としての限界を示した。これに代わり,マクロベントスの生物量や群集型が養殖場の環境収容力を示す指標となることを明らかにした。
養殖研究所・飼育環境技術部・飼育技術研究室
[連絡先]  0599-66-1830
[推進会議] 水産養殖 
[専門]    漁場環境
[対象]    底生生物
[分類]    普及

[背景・ねらい]
 養殖業者による漁場の適正利用を目的に「持続的養殖生産確保法」が平成11年に施行された。本法律の「基本方針」により定められた環境基準は,情勢の推移により必要が生じたときは,科学的知見を根拠にしたより精度の高い指標およびより適正な数値に改訂されうる。この観点から,基本方針に定められた酸素消費速度を指標とした硫化物態硫黄量(硫化物量)に関する基準が五ヶ所湾の魚類養殖場に適正可能か否かを検討するとともに,三重県水産技術センター尾鷲分場の協力により熊野灘の22魚類養殖場から夏季に得た試料を分析し,マクロベントスの指標性を検討した。

[成果の内容・特徴]

  1. 五ヶ所湾では,生簀から順次,間隔をとって沈降物と堆積物を採集することにより,有機物負荷量・硫化物態硫黄量の傾度を把握できたが,生物的酸素消費速度が最大となる硫化物態硫黄量を見出せず(図1),本養殖漁場には「大森・武岡理論」に基づいた本環境基準を適用できなかった。
  2. 底質の全窒素量が1.2mg/gでマクロベントス生物量が極大となる(図2)ことから,この値に達しない範囲を有機物質負荷が許容される環境,他方,硫化物態硫黄量が1.7mg/g以上でほぼ無生物となる(図3)ことから,この値を越える範囲を著しく悪化した環境と診断できる。  
  3. マクロベントスの種組成により求めた群集型が漁場の位置と水深により算出される内湾度指数と養殖生産量との座標軸の中で位置づけられることを見出した(図4)。群集型を判別することにより各漁場毎の養殖許容量が推定でき,無生物となる区域(F群集区)を養殖場として危機的な環境,E群集区を注意が必要な環境,A-D群集区を健全な環境と診断できる。
[成果の活用面・留意点]
@五ヶ所湾で酸素消費速度のピークに対応する硫化物態硫黄量を見いだせなかったのは,溶存酸素量が短期間に大きく変化することによると推測される。今後,他の漁場での測定例を増やし,本指標の基準としての適否を判断する必要がある。
A底質やマクロベントスの分析・評価には専門的な知識・技術が必要となるので,養殖業者がこれらの指標を用いて自主的に漁場の管理を行うには分析や評価に関するマニュアルの作成,公的機関などによる普及活動,業界団体などによる集約的な分析・評価・指導体制の確立が不可欠である。
[具体的データ]
図1.魚類養殖漁場における堆積物の生物的酸素消費速度と硫化物態硫黄量の関係  
図2.養魚生簀直下堆積物の窒素量とマクロベントスの生物量の関係
図3.養魚生簀直下堆積物の硫化物態硫黄量とマクロベントスの生物量の関係
図4.内湾度指数と養殖生産量の中におけるマクロベントス群集型の配置

 [その他]
 研究課題名:マクロベントスによる海面養殖漁場の簡易な環境監視・診断法の開発
 予算区分 :水産振興
 研究期間 :平成8〜12年度
 研究担当者:横山 寿
 発表論文等:
1)横山 寿 (2000). 海面魚類養殖場の環境基準ーその施策と問題点ー.養殖研報29:123-134.
2)Yokoyama, H., A. Nishimura and M. Inoue (2000). Macroinvertebrates as biological indicators
  to assess the influence of aquaculture on the coastal environment. European Aquaculture
  Society Special Publication No.28 (Abstracts of contributions presented at the International
  Conference AQUA2000), p.762.
3)横山 寿,坂見知子(印刷中).五ヶ所湾魚類養殖場における環境基準としての酸素消費速度の検討.
  水産学会誌.

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