クロアワビにおける筋萎縮症耐性家系等の効率的な判別技術の開発


[要約]
アワビの混同飼育による形質評価法を確率するため, 家系判別を可能とするマイクロサテライトDNAマーカーを開発した。これを用いて, 検証が難しかったクロアワビ筋萎縮症耐性が遺伝的形質であることを示した。系統作出の基盤を作り, 停滞しているクロアワビ種苗生産を育種によって向上させる端緒を開いた。
養殖研究所・遺伝育種部・遺伝資源研究室
[連絡先]  0599-66-1830
[推進会議] 水産養殖
[専門]    水産育種
[対象]    あわび
[分類]    研究

[背景・ねらい]
クロアワビの種苗生産現場では筋萎縮を伴った稚貝の大量斃死が頻発し, 種苗生産の大きな問題になっている。この原因として濾過性病原体が疑われていることから, 対策の一つとして選抜によって病原体に強い家系を作ることが考えられる。しかしながら, 病原体が特定されておらず, 人為感染試験等による通常の選抜育種ができない状況にある。そこで, 本症の発生時に耐病性形質を効率的に評価する方法の開発を目的とし, DNAマーカーを用いた家系判別法の開発を目指した。すなわち, 異なった家系の個体群を同一環境で飼育し, 家系に由来する生残率の変化に対応する遺伝的差異を評価するものである。この遺伝的指標を用いて, 本症の発生時に生残率の高かった種苗を親とした家系と, 天然貝を親とした家系の特性を比較し, 筋萎縮症耐性系統作出の基盤作りを目指すものである。

[成果の内容・特徴]

  1. アワビDNAから71のマイクロサテライトDNA(MS)領域を探し出し, 多型性やメンデル遺伝性を調べ,家系判別に有望な14マーカーを開発した(図1)。
  2. これを用いることにより,受精直後から混合飼育した稚貝について家系を完全に判別することができた(図2)。
  3. 5割程の種苗が筋萎縮を伴い大量斃死した5月から8月にかけて,水槽内の各家系の構成比は,天然貝を親とした家系が大きく減少し,本症発症時の生残り個体を親とした家系が増加した(図3)。これにより,生残親家系が遺伝形質として筋萎縮症耐性を持つことが示され,耐病性系統作出に必要な育種素材が確保された。
  4. 今後,本法を用いることにより種苗生産現場を利用した効率的な優良系統素材の作出が期待できる。
[成果の活用面・留意点]
 マイクロサテライトDNAマーカーによる家系判別法が実験規模での形質評価に有効であることを明らかにした。種苗生産現場における汎用化に向け,優良個体や集団の選抜を大規模に実施した実用化の可否を検証する必要がある。また,アワビ筋萎縮症耐性系統の確立には,人為感染実験を基にした選抜,交配の繰り返しにより,固定化された系統の確立が可能であるが,これには病原体の特定が不可欠である。

[具体的データ]
図1.家系判別マイクロサテライトDNAマーカーの開発
親のDNAサイズとの一致で家系判別ができる。
図2.クロアワビ筋萎縮症発症時の家系判別
生残個体のDNAサイズから親子関係を調べることで家系判別が可能になる。
図3.筋萎縮症発症時の生残,交配と天然親家系の構成比の変化

[その他]
研究課題名:
予算区分 :先端技術開発[水産資源]
研究期間 :平成12〜14 年
研究担当者:原 素之
発表論文等:
1) M.Sekino and M.Hara (2001):Microsatellite DNA loci in Pacific abalone Haliotis discus discus. 
   Molecular Ecology Note, 1, 8-10.      
2) M.Hara and M.Sekino (2000):Genetic and breeding science of abalone and their application
   to the aquaculture techniques. SUISANZOSHOKU, 49(2), 123-126.

目次へ戻る