サクラマスの成長及び遊泳能力に対する流水刺激の影響
- [要約]
- サクラマス1歳魚および2歳魚を平均流速2, 13, および23cm/secの流水中で約1年間飼育し、成長段階の異なる魚の成長・遊泳能力に対する流水刺激付与効果を比較検討した。1歳魚、2歳魚とも、最小流速群より中間および最大流速群において、体サイズ、肥満度が増大した。遊泳能力は成長に伴い高まったが、流水刺激効果は1歳魚で顕著であった。また、1歳魚では、強い流水刺激は銀毛変態の位相を遅らせる可能性が示唆された。本研究により、流水刺激は、サクラマスの成長や遊泳能力の向上に有効な環境因子となり得ることが示された。
養殖研究所・日光支所・育種研究室
[連絡先] 0288-55-0055
[推進会議] 養殖研
[専門] 飼育環境
[対象] 他の陸封さけ・ます
[分類] 研究
- [背景・ねらい]
- サケ科魚類が生育する環境中、特に幼魚期において‘流れ’は不可避的に存在する。そのような環境中では、魚は一定場所に定位するため、必然的に運動を強いられる。これまでに人為的環境下で試みられてきた運動飼育試験において、成長促進や飼料転換効率に対する運動効果は、同じサケ科魚類でも魚種や運動強度などにより異なることが報告されてきた。養殖生産や放流魚育成では、成長促進や、放流後の生残率に深く関与する遊泳能力の向上が強く求められる。そこで、本研究では、我が国の養殖や放流対象として重要種であるサクラマスを供試魚として、異なる流速の流水刺激環境下で飼育することにより、魚に異なる強度の運動負荷を与え、成長段階の異なる魚の成長・遊泳能力などに及ぼす影響を比較検討した。
[成果の内容・特徴]
- 体サイズおよび肥満度は1歳魚、2歳魚ともに流水刺激により増加した(図1)。
- 1歳魚の早熟雄の出現率は、流水刺激により低下した。
- 流水刺激は、1歳魚の銀毛変態の位相を遅らせる効果があることが示唆された(図2)。
- 1m/secの急流中での耐泳時間は、流水刺激馴致期間を通じて、1歳魚では流水刺激強度に比例して延長したが、2歳魚ではどの流速群でもほとんど延長しなかった。
- 1歳魚では、成長に伴う遊泳能力の獲得に流水刺激が有効に作用していたことが示唆された(図3)。
- 1歳魚の成長率を最大にする遊泳速度は、約1FL/secであると推定された(図4)。
- [成果の活用面・留意点]
- 流水刺激がサクラマス養殖生産および放流魚育成に有効な環境因子として活用し得ること、ただし、流水刺激を付与する成長段階、刺激強度により、付与効果は異なることが示された。なお1歳魚の成長率を最大にする遊泳速度が1FL/sec付近に存在することが示唆されたことから、今後は、成長に合わせて流速を調整できる実験条件下で、成長、遊泳能力に加えて、体成分、飼料転換効率に対する流水刺激効果についても検討する必要がある。
- [具体的データ]
- 図1.サクラマスの尾叉長、体重および肥満度に対する流水刺激付与効果
- 図2.サクラマス1+魚の銀毛変態の推移
- 図3.成長に伴う耐泳時間の変化、耐泳時間は1000mm/secの流水中で遊泳が持続した時間を示す.
- 図4.相対的な遊泳速度と成長率の関係
[その他]
研究課題名:サクラマスの成長及び遊泳能力に対する流水刺激の影響
予算区分 :経常
研究期間 :平成11年度
研究担当者:東 照雄・矢田 崇
発表論文 :なし
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