アコヤガイ適正収容量算出のための数値モデル開発


[要約]
アコヤガイによる摂餌と海水交換を考慮に入れ,餌料密度を予測するための餌料生物動態モデルを開発した。このモデルは,1997年に五ヶ所湾で実測された餌料生物密度(クロロフィル量)をよく再現することができた。さらに,昨年度開発したアコヤガイ成長モデルと組み合わせることにより,養殖個体数を変えた場合の餌料密度の変化とアコヤガイの成長量を試算できるようになった。
養殖研究所・飼育環境技術部・環境制御研究室
[連絡先]  05996-6-1830
[推進会議] 養殖研 
[専門]    飼育
[対象]    アコヤガイ
[分類]    調査,研究

[背景・ねらい]
真珠養殖場での慢性的過密養殖が懸念されるなか,「持続的養殖生産確保法」の制定により,各漁場における適正養殖量を科学的に求める必要性が高まっている。本研究では,養殖貝の餌料要求と海域における餌密度のバランスを適正収容量を求める際の基本的な考え方としてモデルを考案した(図1)。このモデルは2つのサブモデル(アコヤガイ成長モデルと餌料生物動態モデル)から成り立っている。今年度は,このうち餌料生物動態モデルを作成するとともに,昨年度作成したアコヤガイ成長モデルとの統合を行った。

[成果の内容・特徴]

  1. 増殖,自然死亡,アコヤガイによる摂餌,海水交換による流出のバランスを考慮して,餌密度の変動を以下のように表した。
      V・dC/dt = (a- b)VC - FBC + Q                    (1)
    ここで,Cは餌密度,Vは海域の容積,aは増殖率,bは自然死亡率,Bはアコヤガイ個体数,Fはろ水量,Qは系外との海水交換による餌生物の増減である。この式で,Qはボックスモデル解析により求める。また,Fは昨年度作成したアコヤガイ成長モデルにより求めることができるので,餌密度Cが測定されていれば,純増殖率(a-b)が上式により計算できる。これにより,アコヤガイの養殖個体数(B)を変えた場合の餌密度(C)の変化を予測することができる。さらに,成長モデルによりアコヤガイの成長量が計算できる。
  2. モデルを五ヶ所湾に適用し,養殖個体数を変えた場合の餌密度の変化とアコヤガイの成長を試算した(図2,図3)。実際の養殖数で計算した場合,餌密度は観測値と一致した。養殖個体数の増減に伴って餌密度が増減し,貝による摂餌は生態系に大きな影響を及ぼしている。また,養殖個体数を減らすと貝の成長が良くなり,増やすと成長が悪くなった。養殖個体数が増えて過密養殖になると,餌不足から貝の成長量が低下することが示された。 
[成果の活用面・留意点]
 アコヤガイの養殖個体数を変えた場合の餌密度とアコヤガイの成長量の変化を予測でき,環境保全型養殖の確立に向けた漁場改善計画の策定に資する。
 このモデルは簡便であり,各養殖場へのモデルの応用が比較的容易である。しかし,より精度良くモデル化するには,生態系モデルの構築と利用を今後検討する必要がある。
[具体的データ]
図1.モデルの概要  
図2.餌料生物動態モデル計算結果
  ■:実測値,
  @:養殖数0.5倍での計算値,
  A:養殖数0.8倍,B:現場養殖数,
  C:養殖数1.5倍,D:養殖数2倍
図3.アコヤガイ成長計算結果
  @:養殖数0.5倍での計算値,
  A:現場養殖数,B:養殖数2倍  

[その他]
研究課題名:二枚貝適正養殖量算出モデルの作成に関する研究
予算区分 :水産庁・沿岸漁場整備開発調査
研究期間 :平成11年度(平成9年度〜平成11年度)
研究担当者:阿保勝之,高柳和史,坂見知子,(杜多哲)
発表論文 :アコヤガイ適正養殖量算定のためのモデル開発.研究レビュー適正養殖量
      算定のためのモデル開発研究−現状と展望,水産庁中央水産研究所,(印刷中)

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