魚類の自発摂餌式給餌法における稚魚用給餌器作動スイッチの開発


[要約]
ニジマスの浮上稚魚のサイズから自発摂餌対応可能な高感度スイッチの開発に成功した。このスイッチを給餌器に取り付けて8種類の養殖対象種で試験したところ,いずれの魚種でも自発摂餌が可能であった。試験魚は養殖対象種の摂餌行動特性を殆ど網羅しているので,該スイッチは多くの魚種で汎用性があるものと考えられた。
養殖研究所・栄養代謝部・飼料研究室
[連絡先]  0596-58-6411
[推進会議] 水産養殖 
[専門]    魚類
[対象]    研究
[分類]    研究

[背景・ねらい]
魚類養殖の新しい給餌方法として,魚類の学習機能を水産養殖に応用し,魚自身が給餌器のスイッチを操作することで摂餌要求に基づいた量の餌を給与,魚の栄養の消化吸収・代謝リズムに合致した飼養技術の高度化を図ることを目的とする。

[成果の内容・特徴]

  1. 摂餌行動以外のスイッチへの接触で誤作動しない自発摂餌用スイッチを開発し,これに改変した市販の給餌器とデ−タロガ−を接続して自発摂餌行動を自動記録できるシステムを構築した。
  2. ニジマスの浮上稚魚(体重0.1g)から自発摂餌可能な高感度スイッチ(特願平11-335901)を開発し,これらのスイッチにより稚魚から成魚までの広範囲なサイズに対応する自発摂餌式給餌が可能になった。
  3. このシステムを用いて,小型水槽におけるニジマス,アマゴ,コイ,ウナギ,クエ,ヒラメ,トラフグ,シマアジ等の稚魚の自発摂餌リズムを記録した。これらの魚種は,いろいろな養殖対象種の摂餌行動を殆ど網羅しているので,該スイッチが自発摂餌式給餌器作動スイッチとしてより多くの魚種で汎用性があるものと考えられた。
  4. 0.3gサイズのニジマスを用いて,12時間及び24時間連続自動給餌と自発摂餌とで成長比較試験を行ったところ,自発摂餌は連続自動給餌と同等の飼料効率,成長等が得られ,実験終了時の平均体重及び肥満度の変動係数は自発摂餌が統計的に有意に小さかった(図1)。
  5. このことから,給餌回数の多い方が望ましいとされる餌付け期のニジマスでは,自発摂餌が良好な成長が得られ,個体間の体重のばらつきや死亡の比較的少ない給餌方法として有効であると考えられた。
  6. ニジマスとコイで自発摂餌によって,タンパク質,脂肪及び炭水化物を主体とする3種類の飼料を自由選択させた群とこれらの成分を適当な比率で配合した基本飼料群との間で,可消化エネルギ−の摂取量や成長及び栄養成分の利用性を検討したところ,これらの3種類の栄養素を魚自らが適当な割合で選択して摂取量を調整できることが明らかになった。
[成果の活用面・留意点]
これまでの研究により,養殖対象主要魚種が自発摂餌を行うことが確認でき,高感度スイッチの開発によって,稚魚から成魚までの広範囲なサイズに対応する自発摂餌式給餌が可能になった。また、飼料摂取量の調節や成分含量の異なる飼料に対する一定の選択性を示すことも示唆され,栄養飼料研究への応用も期待される。自発摂餌は,1回に与える餌(報酬量)を適量にすれば,残餌の少ない環境にやさしい効率の良い給餌方法である。現場への応用には,この報酬量や摂餌の成長に伴う周年リズムや環境変動機構等の更なる研究の深化が必要である。

[具体的データ]

図1.ニジマス0.3gサイズ稚魚の自発摂餌と連続自動給餌での成長比較


[その他]
研究課題名:オペラント条件付けを利用した魚類の新養殖技術の開発
予算区分 :農水省農林水産技術会議パイオニア特別研究
研究期間 :平成11年〜13年
研究担当者:鈴木伸洋・山本剛史・島 隆夫・古板博文
発表論文 :ニジマス0.3gサイズ稚魚の自発摂餌と連続自動給餌での成長比較.
            平成12年度日本水産学会春季大会講座,754.
           シンポジウム魚類の自発摂餌−その基礎と応用−I-3.ハタ類の自発摂餌.
            平成12年度日本水産学会春季大会講要,P250
           シンポジウム魚類の自発摂餌−その基礎と応用− III.-3.摂餌と栄養.
            平成12年度日本水産学会春季大会講要,P257
           Macronutrient self-selection through demand-feeders in rainbow trout.
            Phsiol.Behav.,45-51(1999).
           Self-selection of diets with different amino acid profiles by rainbow trout
            (Oncorhyncus mykiss) Aquaculture, in press(2000).
           Voluntary intake of diets with varying digestible energy contents and energy
            sources, by juvenile rainbow trout Onchrhyncus mykiss, using self-feeders.
            Fisheries Science, in press(2000).

目次へ戻る