ウナギ人工ふ化仔魚をレプトケファルス幼生まで育てることに成功


[要約]
我々は最近,人工ふ化したウナギ仔魚を,サメ卵低温乾燥粉末を主成分とした餌により全長10mm程度まで成長させることに成功した。しかし,この餌では透明な柳の葉状のレプトケファルス幼生には育たなかった。そこで,消化器官が未発達な仔魚の消化生理を考慮し,タンパク質を低分子に分解したオリゴペプチドおよびビタミン・ミネラル等を添加した餌を与えることによって最長250日以上飼育し,大きなものは全長30mm以上のレプトケファルス幼生まで成長させることに成功した。
養殖研究所・繁殖部・初期発育研究室
[連絡先]  0599-66-1830
[推進会議] 養殖研 
[専門]    魚介類繁殖
[対象]    ウナギ
[分類]    研究

[背景・ねらい]
養殖研究所では,卵から親までの完全養殖実現を目指してウナギ人工ふ化仔魚の飼育技術開発に力を入れてきた。昨年,サメ卵凍結乾燥粉末がウナギふ化仔魚の初期餌料として有効であることを明らかにしたが,サメ卵のみからなる飼料では約1カ月間,10mm前後のプレレプトケファルス幼生の段階までしか育てることができず,天然海域から得られているウナギ目魚類に典型的な葉形仔魚(レプトケファルス幼生)にまで発育しなかった。そこで仔魚の消化生理を考慮して餌の改良に取り組み,さらに長期間飼育しレプトケファルス幼生にまで発育させることを目的とした。

[成果の内容・特徴]

  1. サメ卵凍結乾燥粉末をベースとし,消化機能の十分発達していないプレレプトケファルスが効率よく栄養を吸収できるように,タンパク質を低分子にまで分解したオリゴペプチドを添加するとともにビタミン・ミネラルを強化し,これらの材料をオキアミ抽出液に懸濁させた新たな餌を考案した。
  2. 上記の飼料を与えた結果,従来の餌では成長が停滞したふ化後20日目以降も順調な成長が続き,50日目の生残率は3〜5%,100日目で0.5〜2%と高く,全長は25日で約10mm,50日で16mm,100日で20mm以上に達し,最高250日以上生存させることに成功した(図1)。 
  3. 大きなものは全長30mmを越え,歯の数が増し,形が分化したこと,肛門前筋節数が増加したことおよび鰭の発達などから,人工ふ化仔魚(プレレプトケファルス)はレプトケファルス幼生にまで発育したことを確認した(図2)。 
[成果の活用面・留意点]
新しい餌を開発し,従来より大幅に長期間の飼育を可能にし,ウナギ人工ふ化仔魚をレプトケファルス幼生にまで発育させることに成功したことにより,ウナギ人工種苗生産技術開発は飛躍的に進歩した。今後,レプトケファルスからシラスウナギまでの飼育および変態誘起技術が確立されれば,待望久しいウナギの完全養殖が実現する。
[具体的データ]
図1.新たに開発した飼料によるウナギ人工ふ化仔魚の成長  
図2.発育にともなう歯および鰭の発達. A: ふ化後7日, B: 30日, C: 189日. 

[その他]
研究課題名:ウナギの初期発生に対する内的・外的制御因子の影響の解明
予算区分 :先端技術開発研究(水産生物育種の効率化基礎技術の開発)
研究期間 :平成11年度(平成9〜14年度)
研究担当者:田中秀樹,香川浩彦,太田博巳
発表論文 :1) 田中秀樹 1999. ウナギ人工ふ化仔魚の給餌飼育に成功. 研究ジャーナル22
       (3): 25-29.
      2) 香川浩彦 1999. 雌ウナギの成熟・排卵誘起技術. 月刊海洋 号外18: 88-93.
      3) 太田博巳 1999. 雄ウナギの催熟技術. 月刊海洋 号外18: 100-105.
      4) 田中秀樹 1999. 仔魚の飼育技術. 月刊海洋 号外18: 106-112.
      5) 田中秀樹 1999. ウナギ・レプトケファルス幼生の人工生産. ブレインテクノ
       ニュース75:12-16.
      6) 田中秀樹・飯沼紀雄・香川浩彦・太田博巳・辻 将治 1999. ウナギ人工ふ化仔魚
       の2カ月飼育による成長と形態変化. 平成11年度日本水産学会春季大会講演要旨
       集,p.59.
      7) 田中秀樹 1999. ウナギの種苗生産研究の現状. 平成11年度第1回日本水産学
       会中部支部大会講演要旨集,p.3-4.
      8) 特許 ウナギ孵化仔魚の飼育方法.特許第2909536号,平成11年4月9日

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