組織について魚病研究センター (Research Center for Fish Diseases)

免疫グループ (Immunology Group)

 免疫グループでは、ワクチン等予防技術及びワクチン開発支援技術に関する研究開発を行っています。具体的には、ブリの細菌性溶血性黄疸ワクチンの実用化に必要な研究を行うとともに、ブリのノカルジア症等についてワクチンの防御効果をより高める方法や、注射に依らないワクチンの投与方法の開発に向けた研究を行っています。この他、魚介類の疾病に対して免疫学的手法を用いた診断・感染 履歴検査手法を開発し、病原体の伝播・拡散を早期に阻止するための研究も行っています。

研究メンバー

  グループ長 松山 知正
  主任研究員 高野 倫一
     研究員 寺島 祥子
研究員(任期付) 松浦 雄太

研究について

ギンザケEIBSの原因ウイルスの正体解明と対策法の開発
  • 研究の背景と目的

     ギンザケは宮城県において最大の養殖対象魚種であり、生産金額は60億円に及びます。疾病による被害の大半は、細菌性疾病であるビブリオ病とウイルス性疾病である赤血球封入体症候群(EIBS)により引き起こされ、被害額は十数億円に達する場合もあり、震災により壊滅的な被害を受けたギンザケ養殖の復興において大きな障害になっています。EIBSの原因ウイルスはレオウイルスの一種とされていましたが、分離培養できないことから未同定のままであり、疾病対策が進んでいませんでした。また、EIBSは内水面養殖時にも被害を出しますが、内水面での感染履歴の無い集団が海面養殖時に感染すると大量死亡を引き起し、経済的により大きな損失となります。EIBSに対する病害防除対策を構築することができれば、ギンザケ養殖を安定化させ、計画的な生産が可能になると考えられます。そこで本研究では、EIBS原因ウイルスの全塩基配列決定によりウイルスを同定し、遺伝子組換えウイルス抗原の作製によりEIBS感染履歴検査法を開発しました。さらに試作した組換えワクチンの効果を検証しました。

  • 研究成果

    (1) 病魚からの直接ウイルス粒子精製を行い、FLAC法により全塩基配列を決定しました(図1)。その結果、新種のレオウイルスであることが明らかになりました。RT-PCRによる迅速な遺伝子診断法を開発したほか、大腸菌発現系により組換えウイルスタンパク質を作製し、これを用いて少量の血液サンプルからのELISA法による感染履歴検査法を確立しました(図2)。検査法が確立したことで、海面に移動させる魚群の検査を行い、履歴に応じた養殖手法によりEIBS被害を低減させることが可能となりました。
    (2) 組換えウイルス抗原を発現させ、遺伝子組換えワクチンを試作し効果を検証したところ、昆虫細胞で発現させた組換えワクチンに一定のEIBIS発症抑制効果が確認されました。今後の実用化に向けてさらに効果を高める手法の開発を行っていく予定です。

  • 波及効果

    (1) 感染履歴がないと海面での発症後に被害が大きくなることから、感染履歴がないと判明した場合はあらかじめ発症時の給餌制限等の飼育管理計画を立てることでEIBS被害を軽減させることが期待されます。
    (2) 将来的に組換えワクチンが開発・製品化されれば被害をさらに低減できると期待されます。

     なお、本研究は農林水産技術会議委託事業 食料生産地域再生のための先端技術展開事業「サケ科魚類養殖業の安定化、省コスト・効率化のための実証研究」により実施されました。

 
図1 EIBS原因ウイルスの遺伝子構造と予想された ウイルス粒子構造 図2 大腸菌組換えウイルス抗原を利用したELISA感染履歴検査法


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遺伝子情報を利用した難培養性病原体に対するワクチン技術の開発:ブリの細菌性溶血性黄疸に対するワクチン開発
  • 研究の背景と目的

     本研究では、ブリで大きな被害を出している細菌性溶血性黄疸(以下、黄疸)の病原菌を対象にワクチン開発を試みました。我が国で市販されている全ての水産用ワクチンは、培養した病原体を化学処理により毒性をなくした不活化ワクチンであり、病原体の大量培養が必要になります(図1)。魚類病原細菌は培養が困難(難培養性)なものが多く、ワクチンの開発のネックとなっています。このような状況を打破できる新たな技術の導入によるワクチン開発が期待されていました。当研究グループでは、難培養性病原体に対するワクチン開発を行うため、医学分野でも研究進捗が顕著なサブユニットワクチンに着目しました。このワクチンは、生体の免疫反応に重要である病原体の抗原(感染防御抗原)を探索し、その感染防御抗原だけを大腸菌などで合成します。

  • 研究成果

    (1) ワクチンの開発を図2に示しました。黄疸菌のゲノム情報を次世代シーケンサーにて解読し、本菌には約1500個の遺伝子が存在することがわかりました。これらをコンピューター解析により、ワクチンの候補となる268種類の感染防御抗原遺伝子を選び出しました。その遺伝子を大腸菌に組み込み、146種類の組換えタンパク質の合成に成功し、これらを抗原としてサブユニットワクチンを試作しました。
    (2) 試作したサブユニットワクチンの有効性を確認するため、146種のワクチンをブリに接種し、3週間後に黄疸菌による攻撃試験を行い、有効性を検証しました。その結果、4種類のワクチンが死亡を有意に抑制することが分かりました(図3)。特にその1つは死亡率を0%に抑え、高い有効性を持っていました。

  • 波及効果

    細菌性溶血性黄疸の原因菌に対して有効性のあるサブユニットワクチンが作製できました。今後ワクチンメーカーと共同し、本病ワクチンの市販(実用・事業)化に向けて取り組んでいく予定です。病原体を培養する必要がない本ワクチンの作成法は、今後ほかの難培養性病原体のワクチン開発にも応用可能になると考えられます。

    なお、本研究は新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「遺伝子情報を利用した難培養性病原体に対するワクチン技術の開発(2010~2012年度)」により実施されました。

図1. 不活化ワクチンの作製方法
  病原体の大量培養が必要になる
図2. サブユニットワクチンの作製法
  病原体の培養が不要
 



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図3. 試作ワクチンの有効性試験
4つのワクチン(ワクチン1~4)で有効性が確認された
 

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研究課題

  • 未解決疾病の感染予防技術の開発(2016- )
  • 平成31年度水産防疫対策委託事業「水産動物疾病の診断・予防・まん延防止に係る技術開発等」(2016- )
  • 平成31年度水産防疫対策委託事業「水産動物疾病のリスク評価」(2016- )
  • ウナギ種苗の量産に備えた仔稚魚期の感染症の予測(2017-)
  • マダイイリドウイルス病等の重要疾病に対するワクチンの開発 (2018-)
  • ギンザケの赤血球封入体症候群ワクチンの改良および迅速な有効性判定技術の開発(2018-)
  • アワビ筋萎縮症をモデルとした貝類の宿主病原体相互作用の解明と防除技術の確立(2018-)
  • 魚類NK細胞が担う細胞性免疫機構解明と細胞性免疫を誘導する免疫賦活剤の開発(2019-)
  • 病原体が不明な水産動物疾病の診断法と防除法の開発(2019-)

発表論文

  • Matsuyama, T., Takano, T., Nakayasu, C., Odawara, K., Tsuchihashi, Y., Tanaka, S., ... & Masaoka, T. (2019). Spatiotemporal dynamics of Spirochaeta, the putative etiologic agent of Akoya oyster disease in pearl oysters, as determined by quantitative PCR. Aquaculture, 734433.
  • Takano, T., Matsuyama, T., Kawato, Y,., Sakai, T., Kurita, J., Matsuura Y., Terashima, S., Nakajima, K. and Chihaya, N. (2019) Identification of epitope recognized by an anti-red sea bream iridovirus (RSIV) monoclonal antibody using phage displayed library. Fish Pathology, accept
  • Matsuyama, T., Fukuda, Y., Takano, T., Sakai, T., & Nakayasu, C. (2018). Antibody-mediated bacterial killing of Ichthyobacterium seriolicida in Japanese amberjack. Veterinary immunology and immunopathology, 203, 73-77.
  • Matsuyama, T., Matsuura, Y., Inada, M., Takano, T., Nakayasu, C., Sakai, T.,Terashima, S., Yasuike M., Fujiwara, A., Nakamura, Y., Tuchihashi, Y., Odawara, S., Iwanaga S. and Masaoka T. (2018). An Epidemiological Study of Akoya Oyster Disease Using Polymerase Chain Reaction Targeting Spirochaetes Genes. Fish Pathology, 53(2), 63-70.
  • Matsuyama, T., Sano, N., Takano, T., Sakai, T., Yasuike, M., Fujiwara, A.,Kawato, Y., Kurita, J., Yoshida K., Shimada N. and Nakayasu, C. (2018). Antibody profiling using a recombinant protein–based multiplex ELISA array accelerates recombinant vaccine development: Case study on red sea bream iridovirus as a reverse vaccinology model. Vaccine, 36(19), 2643-2649.
  • Matsuyama, T., Yasuike, M., Fujiwara, A., Nakamura, Y., Takano, T., Takeuchi, T., Sato, N., Tsuchihashi, Y., Aoki, H., Odawara, K., Iwashita S., Kamaishi, T., and Chihaya N. (2017). A Spirochaete is suggested as the causative agent of Akoya oyster disease by metagenomic analysis. PloS one, 12(8), e0182280.
  • Takano, T., Nakamura, Y., Matsuyama, T., Sakai, T., Shigenobu, Y., Sugaya, T., Yasuike, M., Fujiwara A., Kondo, H., Hirono, I., Fukuda, Y. and Nakayasu, C. (2017). Complete genome sequence of Ichthyobacterium seriolicida JBKA-6T, isolated from yellowtail (Seriola quinqueradiata) affected by bacterial hemolytic jaundice. Genome Announc., 5(6), e01574-16.
  • Matsuyama, T., Fukuda, Y., Sakai, T., Tanimoto, N., Nakanishi, M., Nakamura, Y., Takano, T., and Nakayasu, C. (2017). Clonal structure in Ichthyobacterium seriolicida, the causative agent of bacterial haemolytic jaundice in yellowtail, Seriola quinqueradiata, inferred from molecular epidemiological analysis. Journal of fish diseases, 40(8), 1065-1075.
  • 松山知正 (2017) 水産用ワクチンの適用拡大を目指した魚種間の免疫応答の比較. JATAFFジャーナル 5(6) 57.
  • 高野倫一(2017)ワクチン. 月刊養殖ビジネス臨時増刊号.93-97
  • 松山知正 (2017)ワクチン利用の承認拡大の可能性. 月刊養殖ビジネス臨時増刊号.124-126.
  • 松山知正 (2017)リバースワクチノロジー技術を用いた難培養性の魚苗細菌ワクチンの開発. The Japanese society for animal vaccine and biomedical research news letter.16, 11-12.
  • 松山知正 (2016) アコヤガイ(真珠貝)の赤変病とBrachyspira属に近縁な細菌について. Brachyspira, 2017. 7(1),15-22.
  • Takano, T., Nawata, A., Sakai, T., Matsuyama, T., Ito, T., Kurita, J., Terashima S. Yasuike, M., Nakamura Y., Fujiwara, A,. Kumagai, A. and Chihaya N. (2016). Full-genome sequencing and confirmation of the causative agent of erythrocytic inclusion body syndrome in coho salmon identifies a new type of piscine orthoreovirus. PLoS One, 11(10), e0165424.
  • Takano T, Matsuyama T, Sakai T, Nakamura Y, Kamaishi T, Nakayasu C, Kondo H, Hirono I, Fukuda Y, Sorimachi M and Iida Y (2016): Ichthyobacterium seriolicida gen. nov., sp. nov., a member of the phylum Bacteroidetes, isolated from yellowtail fish (Seriola quinqueradiata) affected by bacterial hemolytic jaundice, and proposal of a new family, Ichthyobacteriaceae fam. nov. IJSEM, online.
  • 松山 知正,南 隆之,福田 穣,佐野 菜摘,坂井 貴光,高野 倫一,中易 千早 (2016): 海産5魚種におけるマダイイリドウイルス病に対する受動免疫の効果. Fish Pathology, 51(1), 32-35.
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  • Kurita J and Nakajima K (2012): Megalocytiviruses. Viruses-Basel, 4(4), 521-538.
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  • Takano, T and Sano M, (2010): Evidence of Molecular Toll-like Receptor Mechanisms in Teleosts, Fish pathology, 45 (1), 1-16.
  • Takano T, Matsuyama T, Oseko N, Sakai T, Kamaishi T, Nakayasu C, Sano M and Iida T (2010): The efficacy of five avirulent Edwardsiella tarda strains in a live vaccine against Edwardsiellosis in Japanese flounder, Paralichthys olivaceus. Fish & Shellfish Immunology, 29 (4), 687-93.
  • Matsuyama T, Sakai T, Kiryu I, Yuasa K, Yasunobu H, Kawamura Y and Sano M (2010): First isolation of Vibrio tapetis, the etiological agent of brown ring disease (brd), in manila clam Ruditapes philippinarum in Japan, Fish Pathology, 45 (2), 77-79.
  • Matsuyama T, Nakayasu C and Sano M (2010): Immunocytochemical studies of the ontogeny of peripheral blood leucocyte subpopulations in Japanese flounder (Paralichthys olivaceus), Fish & Shellfish Immunology, 29(2), 362-365.