組織について養殖システム研究センター
(Research Center for Aquaculture Systems)

飼餌料グループ (Aquafeed Group)

 飼餌料グループは、水産生物の栄養代謝機構を解明し、飼餌料の開発並びに飼料及び飼料添加物の効用並びに安全性に関する研究開発を行います。これまでに魚粉を削減し環境への負荷を軽減するため、魚粉を全く配合しないニジマス用無魚粉飼料やアユ用の低魚粉飼料を開発したほか、大豆油かすがマス類の生理状態に及ぼす影響とその改善方法を明らかにしました。また、古典的な選抜育種の手法により、特別な栄養価の改善をしない安価な低魚粉飼料でも育つアマゴの家系作出に成功しました。第4期中期計画では、低魚粉飼料がブリ類の消化生理に及ぼす影響を明らかにするとともに、他機関と連携してニジマスとカンバチに低魚粉飼料を与えて選抜し、実用化に向けた取り組みを行います。また、クロマグロやウナギの人工初期飼料を開発して初期減耗を低減する技術の開発に取り組みます。

研究メンバー

グループ長 山本 剛史
主任研究員 古板 博文
主任研究員 奥  宏海
主任研究員 村下 幸司
   研究員 松成 宏之

研究について

魚粉配合率を削減した養殖用飼料の開発
  • ねらい・目的

     我が国の養殖用配合飼料の主原料は、その大部分を海外からの輸入に依存している魚粉ですが、世界的な養殖生産量の増加に伴い、魚粉価格が高騰し、安定的な供給も困難になりつつあります。そのため、魚粉に代わる良質な原料を飼料に配合するための研究が必要です。ところが、大豆油かすなど有望視されている新しい原料の多くは、魚粉に比べて栄養価が低いことや、魚類の生理状態に悪影響を及ぼす物質を含んでいる場合があります。このため飼餌料グループでは、魚粉に代わる原料を配合した飼料が養殖魚の生理状態に及ぼす影響とその改善方法に関する研究を行います。

  • 研究の成果

    大豆油かすが主成分の低・無魚粉飼料を与えたマス類に生じる胆汁酸欠乏や腸管組織変性は、胆汁酸と結合して排泄を促進する大豆タンパク質が原因であり、それが脂質の消化吸収率の低下などを引き起こし飼育成績の低下につながることが明らかになりました。また、アユではマス類に見られるような大豆油かすの給与が原因となる顕著な生理異常は見られず、魚粉含量を20%にまで削減した飼料でも良好な成長が得られました。

       
    図1 低魚粉飼料を与えたアユの成長の推移*(左図:小規模水槽による飼育結果。右図:飼料メーカーで試作した実用タイプの飼料を与えた実証飼育結果)
    *和歌山県および東海大学との共同研究

  • 今後の研究の方向性

     マス類で明らかになったように、低魚粉飼料を効率的に給餌するには、消化生理に基づいた飼料開発が重要となります。これまでに大豆油かす主体飼料が海産養殖魚の消化酵素分泌を阻害することを明らかにしました。今後は、その阻害要因を調べるとともに、消化を促進する物質を探索することでブリ類における魚粉削減飼料の利用性改善に関する研究を進めて行きます。

低魚粉飼料でよく育つ養殖魚の作出
  • ねらい・目的

     価格が高騰している魚粉の配合率を減らし、大豆油かすなど魚粉より単価の安い原料に置き換えたところで、低魚粉飼料の栄養価を高めるための原料の処理や、不足する栄養素の強化などにより、低魚粉飼料のコストは期待するほど下がらないのが事実です。また、現状の研究開発レベルでは低魚粉飼料による飼育成績の低下の原因と対策が十分に解明されていない魚種が多く、その解決には一定の時間が必要となります。
     このため、低魚粉飼料の品質改善に関する研究開発を進めると同時に、必要最小限に栄養価を改善した低魚粉飼料でも良く育つ養殖魚の作出を試みています。具体的には古典的な選抜育種の手法を導入し、低魚粉飼料で飼育した魚の中から成長の良い個体を選抜して交配することを繰り返し、選抜しない場合と比較して低魚粉飼料に対する選抜効果を確認します。

  • 研究の成果

     淡水魚のアマゴを低魚粉飼料で3世代に亘って選抜したところ、選抜しない群に比べて成長が約9割も改善されました。この効果は主として低魚粉飼料に対する摂餌性が改善したことにあると考えられます。一方、魚粉含量の高い飼料で成長選抜した場合、魚粉の多い飼料の摂餌性は改善しましたが、低魚粉飼料の摂餌性は改善されなかったことから、単に成長の良い個体ではなく、低魚粉飼料を与えて成長の良い個体を選抜する必要性も示されました。

     
    図2 低魚粉飼料で3世代選抜したアマゴ稚魚の各世代における低魚粉飼料に対する成長と摂餌率の変化*(対照群を100とした相対値)
    *東海大学との共同研究

  • 今後の研究の方向性

     現在、山梨県や大学と共同でニジマスを対象に、また、系統開発グループおよび民間企業と共同でカンパチを対象にして、低魚粉飼料を用いた選抜試験を実施しているところであり、十分な選抜効果が見られれば実用化に向けて取り組む予定です。

魚類の食欲とその制御に関する研究
  • ねらい・目的

     摂餌性の良い餌の開発や効率的な調給餌を行うには、魚類の食欲調節機構に基づいた技術開発が重要となります。魚類ではほ乳類とは似て非なる食欲調節機構を有することが分かってきていますが、その詳細はまだまだ不明なままです。魚類における食欲調節機構の詳細な解明へ向けて、摂食調節因子が欠損した魚を作出して栄養代謝特性の変化を調べます。

     
    図3 研究の概略

  • 研究の成果

    これまでにゲノム編集技術を用い、摂食調節因子が欠損したモデル魚(メダカ)を作出しました。

  • 今後の研究の方向性

     作出したモデル魚を解析することで魚類の食欲調節機構の詳細を解明し、効率的な養殖技術の開発を進めて行きます。

仔稚魚期の栄養要求特性の解明と仔稚魚用配合飼料の開発
  • ねらい・目的

     海水魚や甲殻類の種苗を生産する際に一般的に用いられているシオミズツボワムシやアルテミア幼生などの生物餌料には、必ずしも種苗の発育に必要な栄養素が十分量含まれていないため、ドコサヘキサエン酸(DHA)やタウリンなどの栄養素を強化した上で種苗に与える必要があります。また、種苗生産に必要な生物餌料の培養には多大な労力が必要なことなどから、生物餌料に代わる配合飼料の開発が求められています。特にクロマグロの種苗生産では、ワムシやアルテミアに加え、他魚種のふ化仔魚を餌料として与える必要がありますが、クロマグロの種苗生産に合わせて多量のふ化仔魚を供給するための他魚種の親魚の飼育管理や採卵に多大な作業を要することが問題になっています。このため、ふ化仔魚を必要としないクロマグロの種苗生産を実現するため、餌料用ふ化仔魚に代わる配合飼料の開発に取り組みます。

  • 研究の成果

    餌料用ふ化仔魚に代わるクロマグロ仔魚用飼料の開発
     これまでに7日齢(全長5.4mm)のクロマグロ仔魚が摂餌する人工餌料を開発し、その摂餌が13日齢(全長10mm)から急増することを明らかにしました。また、アルテミア幼生をいったん凍結してから給餌することにより、消化性が改善し、クロマグロ仔魚の生残率が改善しました。さらにクロマグロ仔魚における各種餌料・飼料原料の消化性を評価するための人工消化実験系を確立しました。

       
    写真 人工餌料を摂餌したクロマグロ仔魚(13日齢。消化管を外に出して破ったところ。右図のバーは200μm)

  • 今後の研究の方向性

     開発した人工消化実験系を用い、クロマグロ仔魚にとって消化性の良い飼料原料の探索と、消化性を改善するための原料の処理方法を検討しているところであり、これら原料を配合した飼料の有効性を確認する予定です。

研究課題

養殖業の発展のための研究開発
  • クロマグロ高品質稚魚の供給技術の開発(2012-16:農林水産技術会議):クロマグロの親魚用飼料の開発および種苗生産中期の配合飼料の開発
  • クロマグロの種苗量産技術の開発及び養殖技術の高度化(2017-18:運営費交付金):クロマグロ仔魚の消化性に優れたふ化仔魚に代わる配合飼料の開発
  • シラスウナギの安定生産技術の開発(2012-16:農林水産技術会議):ウナギ仔魚用飼料の改良
  • ウナギ種苗の大量生産システムの実証事業(2014-16:水産庁):ウナギ仔魚の飼育の省力化・省コスト化による安定大量生産技術の開発
  • 有用家系の作出と実用化に向けた技術開発(2016-20:運営費交付金):低魚粉飼料でよく育つニジマスおよびカンパチの家系作出に関する研究
  • 低魚粉飼料の開発と実用化に関する研究(2016-20:運営費交付金):低魚粉飼料を与えたブリ類の消化生理の解明
  • 魚類レプチンが持つ有用機能を解明する((2015−2017:科研費):遺伝子編集技術を用いてレプチンおよびその受容体の遺伝子を欠損したメダカにおける栄養代謝機能の解明
海洋・生態系モニタリングとそれらの高度化および水産生物の収集保存管理のための研究開発
  • 遺伝子編集技術を用いた不妊化魚による外来魚の根絶を目的とした遺伝子制圧技術の基盤開発(2014−2016:環境省):ゲノム編集技術を用いた外来種の駆除技術の開発

発表論文

  • Yamamoto, T. et al. (2016) Amago salmon Oncorhynchus masou ishikawae juveniles selectively bred for growth on a low fishmeal diet exhibit a good response to the low fishmeal diet due largely to an increased feed intake with a particular preference for the diet. Aquaculture 465; 380-386
  • Yamamoto, T. et al. (2016) Effects of low fishmeal diets on the growth performance and physiological condition of ayu Plecoglossus altivelis. Fisheries Science 82(2); 819-826
  • Yoshida, C., Maekawa, M., Bannai, M., Yamamoto, T. (2016) Glutamate promotes nucleotide synthesis in the gut and improves availability of soybean meal feed in rainbow trout. Springer Plus 5; 1021-1032