組織について育種研究センター(Research Center for Aquatic Breeding)

ゲノム育種グループ(Genomics Breeding Group)

 ゲノム育種グループは、基本的な育種技術や形質評価技術及び系統の作出と安全性評価等に関する研究開発を行っています。

 主にブリ、ヒラメ、トラフグなどの海産魚を対象に、病気に強い、成長が速いなどといった優良な形質の評価法の開発、それらの形質を持つ家系を選抜育種するための指標となる遺伝子マーカーの開発、選抜に頼らない人為的な変異導入法などの開発に加え、実際に選抜系統を作出してその生物特性や有用性の評価に取り組んでいます。また、主にサケ・マス類、コイなどの淡水魚を対象に、遺伝子組換え魚や外来種による遺伝資源のかく乱の防止や天然資源の生物多様性の保全の観点から、遺伝子組換え魚類の検出や生物多様性への影響評価のための研究開発に取り組んでいます。

研究メンバー

グループ長 岡本 裕之
主任研究員 正岡 哲治
主任研究員 尾崎 照遵

研究について

海産魚(ブリ)の育種研究(図1)

―ハダムシの付きにくいブリの作出―

ブリ類は日本で最も多く養殖されている魚種ですが、天然の稚魚を捕獲してそれを養殖するという手法をとっているために、毎年多くの感染症の被害を受けます。特に、ハダムシがブリの表皮について炎症を起こし、ブリがハダムシを落とすために体を網にこすりつけ2次感染を起こして大量に死ぬことがあります。そのため、ハダムシの寄生を避けるためにハダムシの卵が付着した網を代える必要があり、多くの労力と人手が必要となります。そこで、ハダムシが付きにくいブリの家系を作るための研究を行っています。

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―ハダムシの付きにくいブリの作出―(図1)
天然から捕ってきたブリにハダムシの感染実験を行い、ハダムシの付きにくいブリを見つけて交配をしたブリの家系の中で、共通して持つ染色体の場所(遺伝子座)を特定して、さらに、その家系のブリを選別して交配を行い、その稚魚の感染実験を行っているところです。

   

海産魚(ヒラメ)の育種研究(図2)

―細菌感染症抵抗性のヒラメの育種―

ヒラメは、我が国では多くの場合、陸上の施設で養殖されています。このような閉鎖的な飼育環境では、他の養殖対象種に較べてレンサ球菌やエドワジエラなどの細菌感染やリンホシスチス等のウイルスに感染すると蔓延しやすく、毎年多くの病気による被害が起こっています。グループでは、遺伝子の情報を利用して、レンサ球菌感染症に抵抗性を持つヒラメの家系を作ることに挑戦しました。現在は生産現場での実証試験により実用化に必要な問題点の抽出を行っています。今後は、被害の大きいエドワジエラ症に対する抵抗性についても調べます。

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―細菌感染症抵抗性のヒラメの育種―(図2)
レンサ球菌の感染実験を行い、レンサ球菌感染症に抵抗性を示すヒラメが必ず持つ染色体の領域を見つけ、その領域にあるDNAマーカーを利用して強いヒラメを選別し、強いヒラメ同士を交配すること(選抜交配)によってレンサ球菌感染に抵抗性の遺伝子を持つヒラメの家系を作りました。これを成長の良い民間の家系と交配して、感染症に強くて成長の良いヒラメの実用化に向けて研究開発をすすめます。

DNA情報を用いた種判別の応用(図3)

―貝類(アコヤガイ)の育種―

アコヤガイと近縁種は、殻の形態にいろいろな変異があることや、幼生や稚貝の形態はよく似ているため、貝殻の形態等で種を判別するのは困難です。そこで、DNAの違いを利用して、アコヤガイと近縁種を判別する手法を開発しました。

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―貝類(アコヤガイ)の育種―(図3)
図にある白くて短い横棒のようなものはDNAを染めた物で、バンドと呼びます。このバンドの位置を比較することで種を判別します。 上の図では、大西洋に分布するメキシコアコヤガイだけがDNAのバンドの位置が異なりますので,メキシコアコヤガイをアコヤガイやPinctada radiataから判別できます。 また、下の図の方法では、ペルシャ湾などに分布するPinctada radiataだけがバンドの位置が異なりますので,Pinctada radiataをアコヤガイやメキシコアコヤガイから判別できます。

新規育種手法の開発研究(図4)

―養殖魚の突然変異育種とゲノム編集―

農業や畜産で数千年かけて行われてきた育種は、これからの養殖業においても、産業の発展、食の安定供給を図る上で重要な研究テーマの一つと考えられます。育種を進める最大の問題は、開発時間の長さです。また、多くの個体(魚)を飼育するためのスペース、コスト、労力も無視できない大きな問題です。こうした問題を軽減し効率化する一つの技術として、「突然変異を利用した育種技術の開発」を行っています。育種の主要な考え方の一つとして、様々な遺伝的形質(遺伝的多様性)を持つ集団の中から我々にとって、有用な形質を持つ個体を選抜していくことがあげられますが、本研究では、多くの天然集団から選抜するのではなく、突然変異を利用して小さな集団に多くの遺伝的多様性を持たせ、これを選抜する集団とすることによって、育種にかかる時間、コスト等を低減し、効率的に品種を作出していく技術の開発を目指しています。 また新規育種技術としてゲノム編集技術の利用についても検討していきます。

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―養殖魚の突然変異育種―(図4)
野生型のアマゴ雄に化学薬剤を注射し、その個体から採取した精子の遺伝子に変異が入ったことを、アルビノアマゴの卵との人工授精によって確認しました。この人工授精でのアルビノアマゴの出現頻度は1000尾に1尾程度であり、自然界のおよそ1000倍程度高い頻度でした。高い効率で、養殖魚の遺伝子に人工的に多様性を持たせることができることがわかりました。今後、トラフグ、ヒラメ等、キンギョにおいても試験研究を進め、養殖魚の効率的な新しい育種技術の開発を目指します。

 

外来魚の駆除・根絶技術の開発(図5)

―新たな外来魚の根絶技術の考案―

侵略的外来魚(ブルーギル、オオクチバスなど)は、在来希少種や固有の生態系の破壊などの要因の一つとして考えられています。これらの魚類を駆除するため、物理的な捕獲(網、釣り、電気ショック等)、池干しおよび産卵巣の破壊などが続けられていますが、取り残しなく駆除することは大変困難です。そこで、物理的捕獲に加え、不妊化魚を使って駆除・根絶するという新たな手法を考案し、必要な技術開発を進めます。

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―外来魚の駆除・根絶技術の考案と開発―(図5)
卵を作る働きを抑えた遺伝子を持つオスをつくり、放流する手法。このオスと交尾したメスからは産卵しないメスが生まれます。産卵しないメスを増やすことで、オスが産卵できるメスと交尾する機会を失わせて産卵数を減らし、最後には根絶できるということがシミュレーションで示されました。現在は他機関と共同して、不妊化ブルーギルの作出や不妊化ブルーギルを増やすための方法、さらに不妊化魚の効果的な放流手法の開発に取り組んでいます。


研究課題

2CB優良品種作出および実用化に向けた技術開発
  • 水研機構交付金 「有用家系の作出と実用化に向けた技術開発」(2016-2020)
  • 水研機構交付金 所内プロ「カンパチの性決定遺伝子の推定」(2016)
  • 水研機構 交付金プロ「細菌性疾病等に抵抗性を有するヒラメ品種作出技術の開発」(2016-2017)
  • 農林水産技術会議 委託プロジェクト研究「養殖ブリ類の輸出促進のための低コスト・安定生産技術の開発」のうち、ゲノム情報を利用したブリ類の短期育種技術の開発のうち、「ブリのゲノム解析による新たなSNPの同定とハダムシ抵抗性領域の詳細化」(2014-2018)
  • 同 「ハダムシ抵抗性に関与する遺伝子座の同定と選抜育種用のマーカーの開発」(2014-2018)
3AC遺伝資源および標本の収集・管理ならびに利用技術の開発
  • 農林水産技術会議 プロジェクト研究「ゲノム情報を利用した農産物の次世代基盤技術の開発プロジェクト」のうち、「新たな遺伝子組換え生物にも対応できる生物多様性影響評価・管理技術の開発」のうち、「新規育種技術が生物多様性に及ぼす影響に関する情報の収集・解析」(2013-2017)
  • 環境省 環境研究総合推進費「遺伝子編集技術を用いた不妊化魚による外来魚の根絶を目的とした遺伝子制圧技術の基盤開発」(2014-2016)
3BA水産資源のオーミクス情報等の収集・管理ならびに活用のための研究開発
  • JST 国際科学技術共同研究推進事業地球規模課題対応国際科学技術協力プログラムにおける研究領域「生物資源の持続可能な生産・利用に資する研究」のうち、「次世代の食料安全保障のための養殖技術研究開発(分子育種のためのDNAマーカーの開発研究)」(2011-2016)
  • 科研費基盤C「噛み合いによる減耗を低減する切歯低形成トラフグの作出基盤の開発」(2014-2016)
  • 農林水産技術会議 革新的技術開発・緊急展開事業「水産物の国際競争に打ち勝つ横断的育種技術と新発想飼料の開発」 のうち、「高成長ブリ類家系を天然魚から短期間で作出可能な新たな育種技術開発」(2016-2020)
  • 同、「耐病性や真珠品質にもとづくアコヤガイ選抜技術と育種素材の開発」(2016-2020)
3BCロボット技術、ICT技術等利用による次世代水産業のための研究開発
  • 水研機構交付金 国際共同「水産有用種の育種の高速化のためのゲノミックセレクションに関する日米国際共同研究」(2016)

発表論文

  • Kanonkporn Kessuwan, 久保田諭, Qi Liu, 佐野元彦, 岡本信明, 坂本崇, 山下浩史, 中村洋路, 尾崎照遵 (2016) Detection of Growth-Related Quantitative Trait Lociand High-Resolution Genetic Linkage Maps Using Simple Sequence Repeat Markers in the Kelp Grouper.(Epinephelus bruneus). Marine Biotechnology 18, 57-84
  • Masaoka T, Okamoto H, Araki K, Nagoya H, Fujiwara A, Kobayashi T (2016) Distinction between Pinctada species based on nuclear and mitochondrial ribosomal RNA gene regions. DNA Testing 8, 9-21
  • Aoki J, KaiW, Kawabata Y, OzakiA, Yoshida K, Koyama T, Sakamoto T, Araki K (2015) Second generation physical and linkage maps of yellowtail (Seriola quinqueradiata) and comparison of synteny with four model fish GMC Genomics 16(406) 2-11
  • Koyama T, Ozaki A, Yoshida K, Suzuki J, Fuji K, Aoki J, Kai W, Kawabata Y, Tsuzaki T, Araki K, Sakamoto T (2015) Identification of Sex-Linked SNPs and Sex-Determination Regions in the Yellowtail Genome. Marine Biotechnology 17(4), 502-510 
  • Masaoka T, Oku H, Okamoto H, Arak, K, Nagoya H, Yanagimoto T, Fujiwara A, Kobayashi T (2015) Distinction of hybrids between Salvelinus leucomaenis and Salmo salar using aromatase gene. DNA Testing 7, 27-35
  • Aoki J, Kai W, Ozaki A, Thsuzaki T, Fuji K, Koyama T, Sakamoto T, Araki K (2014) Construction of a radiation hybrid panel and the first yellow tail (Seriola quinqueradiata) radiation hybrid map using a nanofluidic dynamic array. BMC Genomics 15(165), 1-10
  • 藤加菜子, 小山喬, 久保田諭, 吉田 一範, 尾崎 照遵, 津崎 龍雄, 甲斐渉, 青木純哉, 小山喬, 中川雅弘, 堀田卓朗, 津崎龍雄,荒木和男荒木 和男, 坂本崇, 岡本信明 (2014) Construction of a high-coverage bacterial artificial chromosome library and comprehensive genetic linkage map of yellowtail Seriola quinqueradiata. BMC research note, 7-200, 1-10
  • 正岡哲治,名古屋博之,岡本裕之,荒木和男,藤原篤志,小林敬典 (2014) DNAマーカーによるコイとフナ類の雑種判別.DNA多型 22, 80-83
  • Ozaki A, Yoshida K, Fuji K, Kubota S, Kai W, Aoki J, Kawabata Y, Suzuki J, Akita K, Koyama T, Nakagawa M, Hotta T, Tsuzaki T, Araki K, Sakamoto T (2013) Quantitative Trait Loci (QTL) Associated with Resistance to a Monogenean Parasite (Benedenia seriolae) in Yellowtail (Seriola quinqueradiata) through Genome Wide Analysis. PLOS ONE, 8(6), e64987, 1-14
  • Qi Liu, 坂本崇, 岡本信明, 山下浩史, 高木基裕, 重信裕弥, 菅谷琢磨, 中村洋路, 佐野元彦, Wuthisuthimethavee S, 尾崎照遵, (2013) A genetic linkage map of kelp grouper (Epinephelus bruneus) based on microsatellite markers. Aquaculture 414–415, 63–81
  • Masaoka T, Samata T, Nogawa C, Baba H, Aoki H, Kotaki T, Nakagawa A, Sato M, Fujiwara A, Kobayashi T (2013) Shell matrix protein genes derived from donor expressed in pearl sac of Akoya pearl oyster (Pinctada fucata) under pearl culture. Aquaculture 384-387, 56-65
  • Masaoka T, Okamoto H, Araki K, Nagoya H, Fujiwara A, Kobayashi T (2012) Identification of the hybrid between Oryzias latipes and Oryzias curvinotus using nuclear gene and mitochondrial gene region. Marine genomics 7, 37-41
  • Masaoka T, Okamoto H, Araki K, Nagoya H, Fujiwara A, Kobayashi T (2012) Sterility of triploid F2 hybrid between Oryzias latipes and Oryzias curvinotus. Fish genetics and breeding science 41, 43-49
〔特許〕
  • 「突然変異養殖魚」:特許 第5849305号、2015年12月11日 岡本裕之
  • 「ブリ類の性識別方法」:PCT/JP 2013-055979、2013年2月8日 坂本崇、小山喬、尾崎照遵、荒木和男、吉田一範、津崎龍雄