流水刺激がサケマス類の成長・栄養状態に与える影響


[要約]
 サケ科魚類の成育過程において重要な環境因子と考えられる水流の成長・栄養状態に対する刺激効果を、ヒメマスとスチールヘッドトラウトで11か月に亘り調べた。両魚種とも、環境水の流水速度の違いによって、体サイズには大きな差は認められなかったが、体成分には特にスチールヘッドトラウトにおいて顕著な変化が認められ、流水刺激が魚の体質改善を促進することが明らかになった。
養殖研究所・日光支所・育種研究室
[連絡先]  0288−55−0055
[推進会議]  水産養殖
[専門]  飼育環境
[対象]  サケ科魚類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 魚の成長・栄養状態は生活環境により大きく左右される。健康な魚の育成は、自然水域の生物生産力を利用した資源培養を進める上で、また、養殖生産において品質のよい魚を安定して作出する上でも極めて重要である。そこで、種が本来有する環境適応能を可能な限り引き出し、魚の成長・栄養状態を健全に保つための育成技術開発の一環として、サケ科魚類の成育過程で重要な環境因子と考えられ、かつ生活空間の選好性にも深く関わることが推測される”水流”が、個体の成長・栄養状態に与える影響を解析した。供試魚として天然生息域における水流環境が異なるヒメマスとスチールヘッドトラウトを用いた。
[成果の内容・特徴]  
 実験開始時に魚の巡航速度に相当する速さを含む3つの流速条件(2,13および23cm/sec)を設定し、11か月間にわたり、体成長の変化を尾叉長と肥満度からモニターするとともに、体成分として、備蓄エネルギーレベルを示すトリアシルグリセロール含量、成長状態を反映する蛋白質含量、また蛋白質合成速度の指標となるRNA−DNA比およびRNAー蛋白質比、さらに筋線維の発達状態を反映する蛋白質ーDNA比を調べた。実験終了時(11か月後)の分析結果から以下の点が明らかになった(図1)。
  1. ヒメマスおよびスチールヘッドトラウトとも体成長には水流の刺激効果は認められなかった。
  2. ヒメマスでは、流速刺激が、筋線維の発達には促進作用を示すものの、トリアシルグリセロール含量で認められるエネルギー備蓄や核酸比から推測される蛋白質合成速度には促進効果をもたらさないのに対して、スチールヘッドトラウトでは、エネルギー備蓄、蛋白質合成速度及び筋線維の発達いずれも速い流れに晒されることで促進されることがわかった。
  3. これらの結果は、流れの少ない湖で生活するヒメマスと、河川生活に適応したスチールヘッドトラウトの本来の生活環境の違いを反映した結果であると推測された。
[成果の活用面・留意点]
 流水刺激に対する種による応答の違いは天然水域における水流環境の違いを反映していると考えられ、種に固有な適切な刺激レベルの存在が示唆された。種固有の生態特性を的確に引き出した効率的増養殖・健苗育成の確立に繋がる技術基盤の構築が期待される。
[具体的データ]  
図1 異なる流速条件下で11か月間飼育されたヒメマスとスチールヘッドトラウトの尾叉長、肥満度、白筋中のトリアシルグリセロール(TG)含量、蛋白質含量、RNA−DNA比、RNAー蛋白質比および蛋白質ーDNA比。縦棒は標準誤差を示す。標本数は各々15個体。

[その他]
研究課題名:サケ科魚類の異種集団の同所性の解明と制御
予算区分 :大型別枠
研究担当者:東 照雄、矢田 崇
発表論文等:
 1)Effects of environmental water current on growth and nutritional properties in steelhead trout,
   Oncorhynchus mykiss. Aquaculture'98,Las Vegas,Feb.15-19,1998.口頭発表。
 2)スチールヘッドトラウトの成長に対する流水速度の影響。平成9年度日本水産学会春季大会、東京、1997年4月。
  口頭発表。
 3)ヒメマスの成長に対する流水速度の影響。平成8年度日本水産学会秋季大会、福岡、1996年10月。口頭発表。

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