実証研究のためのモデル選択規準
自然の構造の科学的証拠を得るためのモデル選択の規準を構築した。サンプルサイズが小さい場合、AIC は真のモデルの構造から遠いモデルを選ぶ傾向があり、科学的証拠としては弱点がある。近似による不一致は、サンプルサイズによらない真の分布と近似分布の乖離であることから、その推定量を科学的証拠のための規準として提案した。
担当者名 国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所 内水面研究部 資源増殖グループ 連絡先 Tel.0268-22-0594
推進会議名 内水面関係 専門 資源管理 研究対象 魚類 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(1)水産資源の持続的利用のための管理技術の開発
[背景・ねらい]
赤池の情報量規準(AIC)を検定の代用と考える誤用が広がっている。赤池自身は、AICは統計的モデル同定のための多目的な方法を提供するものであり、その目的とは予測・シグナル検出・パターン認識・最適化であると述べており(Akaike 1974)、AICで選ばれたモデルの構造が科学的証拠となるとは述べていない。自然の真の構造に近いモデルを選択する方法についてはこれまで十分な検討がなされていなかった。
[成果の内容・特徴]
AICによるモデル選択は、必ずしも真のモデルの構造に近い近似モデルを選択する傾向を持つとは限らない。AICで推定するのは、サンプルサイズに応じたベストモデルであり、サンプルサイズが小さければ、真の構造から遠いモデルが選択される可能性が十分にある。サンプルサイズによらない基準として、ベストのパラメータを与えた場合のモデルの当てはまりの良さ、すなわち、近似による不一致が考えられ、その推定量をひとつの科学的証拠として利用することを提案した。そのような推定量のひとつとして次のLZC基準を与えた:

LZC = - 2 L + p,

ただし、Lは最大対数尤度、pはパラメータ数である。LZCはAICと良く似ているが、右辺第二項が 2pではなく、pとなっている(AIC = - 2 L + 2 p)。サンプルサイズが小さいとき、AICでは真の構造から遠いモデルが高い確率で選択される傾向があるが(図1)、LZCでは真の構造に近いモデルが選択される確率が比較的高く(図2)、望ましい性質を持っている。
[成果の活用面・留意点]
水産資源解析や生態学的データの解析において、AICは予測、LZCは検証に、目的に応じてモデル選択を正しく活用することにただちに応用できる。
[その他]
研究課題名:ウナギ等回遊性魚類や生態系管理のためのモデル選択の理論的研究による資源管理技術の開発

研究期間:2011-2015

予算区分:運営費交付金

研究担当者:箱山 洋

発表論文等:

箱山 洋 2015. 趣旨説明. 日本生態学会誌 65: 155--156

箱山 洋 2015. モデル選択と予測: その考え方と方法. 日本生態学会誌 65: 157--167

箱山 洋 2015. 予測、実証、モデル構築. 日本生態学会誌 65: 197--202
[具体的データ]

サンプルサイズとAIC/2nの期待値の関係

実線は近似による不一致を表し、AICの期待値は破線および点線で表す(太線:単純なモデル、細線:複雑なモデル)。AICは近似による不一致の推定量としてはバイアスがある。サンプルサイズが小さいとき、真のモデルから遠い単純なモデルを選びやすい。

サンプルサイズとLZC/2nの期待値の関係

図1と同様のサンプルサイズとLZC/2nの関係を表す。サンプルサイズが極端に小さいとき以外は、LZCは近似による不一致のバイアスの小さい推定量である。また、サンプルサイズによらず真の構造に近い複雑なモデルを選びやすい。




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