垂下養殖のアサリは干潟よりも高成長を立証
新しいアサリの養殖システムの開発のため、干潟養殖と垂下養殖の比較試験を行った。コンテナで垂下養殖したアサリは、干潟上の網袋で養殖したアサリよりも成長が良好で、約1年で出荷サイズに達することがわかった。また場所によりアサリの成長が異なり、豊富な植物プランクトンをより多く摂食したアサリの成長が良いことが裏付けられた。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所 養殖システム部 環境管理グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖関係 専門 増養殖技術 研究対象 あさり 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
近年、アサリ資源の激減にともない、天然資源に頼らないアサリ垂下養殖が注目されている。しかし、干潟域との成長の違いを定量的に比較・検証した例はまだ見られない。本研究では新しいアサリの養殖システムの開発のため、網袋養殖と垂下養殖の比較試験を行い、炭素・窒素安定同位体比(δ13C、δ15N)を用いて、干潟および垂下で養殖したアサリの成長を比較し、餌料源との関係を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
2012年9月から2013年5月まで、魚類養殖が盛んな三重県南伊勢町五ヶ所湾とカキ養殖の盛んな鳥羽市生浦湾の試験筏において、アサリのコンテナ垂下養殖試験を行った。また試験筏に隣接する干潟上で網袋によるアサリ養殖試験を行い、アサリの成長を比較した。砂利入り網袋で採苗したアサリ種苗は、試験開始時には平均殻長16mm、0.6gであったが、砂利入りコンテナで垂下養殖することにより、五ヶ所湾では34週間で、33mm、6.9g、生浦湾では31週間で、29mm、4.8gとなった。これに対し干潟上での網袋養殖では、五ヶ所湾で25mm、3.1g、生浦湾で24mm、2.7gに留まり、干潟上の網袋養殖に対しコンテナ垂下養殖では、殻長で1.8倍、重量で2.5倍の成長がみとめられた。試験に用いたアサリ種苗は2012年春に着底したと推定されることから、約1年で出荷サイズに達することがわかった。また試験実施期間においては、垂下、網袋ともに生浦湾よりも五ヶ所湾のアサリの成長が良好であったが、これは水温、クロロフィル濃度ともに五ヶ所湾の方が高く、餌料となる植物プランクトンがより豊富に存在していたためと考えられた。アサリのδ13C、δ15Nから餌料源を推定すると、干潟上よりも垂下したアサリの方が植物プランクトンをより多く摂食していたことが裏付けられた。
[成果の活用面・留意点]
本研究は、効率的なアサリ養殖技術の開発の基礎データとなる。アサリの成長は、餌料環境によって異なることが示唆され、他の海域においても同様の試験を実施し、より多くのデータを集積することにより、アサリ垂下養殖手法のマニュアル化に寄与する。
[その他]
研究課題名:地域特産化をめざした二枚貝垂下養殖システムの開発 3.垂下養殖システムの検証と改善 (1)垂下養殖の餌料環境評価と成長・再生産との関係把握

研究期間:平成24〜26年度

予算区分:農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業

研究担当者:日向野純也、藤岡義三、石樋由香、長谷川夏樹

発表論文等:石樋由香・松本才絵・日向野純也、安定同位体を用いた養殖アサリの餌料源の推定、平成25年度日本水産学会秋季大会講演要旨集
[具体的データ]




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