マコガレイのレオウイルスの精製,遺伝子解析とRT-PCRによる診断法の確立
病原体が未同定で迅速診断法が確立されていなかったマコガレイのレオウイルス様感染症についての研究に取り組んだ。感染稚魚組織からのウイルス粒子の精製に成功し,FLAC法によりウイルスゲノムRNAの全塩基配列を決定した。その結果,本ウイルスは遺伝情報が得られている既知のグループとは異なるアクアレオウイルスである事が判明し,この塩基配列情報を利用してRT-PCR法による迅速診断法を開発した。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所玉城分室 病害防除部 病原体制御研究グループ 連絡先 Tel.0596-58-6411
推進会議名 水産増養殖部会 専門 病理 研究対象 ウイルス 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
近年マコガレイなどの異体類の種苗生産施設で問題となっているレオウイルスと思われるウイルス感染症は,原因ウイルスの分離培養ができないため病原体が同定されておらず,有効な迅速診断法も開発されていなかった。そのため疾病発生時の迅速診断ができないばかりでなく,その感染源も明らかにすることができず,本疾病に対する有効な防除対策をとることができなかった。本研究のねらいは,本疾病の原因ウイルスを同定して迅速診断法を開発することである。
[成果の内容・特徴]
本研究では、分離培養ができない本ウイルスの同定手段として、大量の感染稚魚組織からのウイルス粒子の精製(図1),FLAC(full length amplification of cDNA)法によるゲノムRNAの全セグメント全長のRT-PCR増幅(図2),さらに全ゲノムRNA塩基配列の決定(図3)という非常に難易度の高い研究手法を駆使して原因ウイルスの同定に取り組み成功したものである。この研究により,本ウイルスは遺伝情報が得られている既知のアクアレオウイルスとは異なるグループのアクアレオウイルスであることが判明した。アクアレオウイルスの全ゲノム解析としては世界で4番目となる。さらに,得られた塩基配列情報を利用して,RT-PCR法による迅速診断法の開発にも成功した(図4)。本疾病の確定的な診断法としては初めてのものである。
[成果の活用面・留意点]
開発したRT-PCR診断法は,種苗生産施設での迅速診断法として極めて有効であり,早期診断による疾病の蔓延防止に役立つ事が予想されるのみならず,まだ解明されていない感染源の解明にとって強力なツールとなることが確実である。この診断手法を用いることによって感染源が早期に解明されれば,疾病対策で最も重要である疾病の予防技術の開発が可能となることから,この迅速診断技術は疾病対策に多面的に大きく貢献することと期待される。
[その他]
研究課題名:新興感染症の病原体の特性と発病機構の解明

研究期間:平成18年度〜平成22年度

予算区分:一般研究

研究担当者:栗田 潤,伊東尚史,湯浅 啓,三輪 理

発表論文等:
[具体的データ]

図1.精製したマコガレイレオウイルスの電顕写真

 感染マコガレイ稚魚組織より,改変塩化セシウム密度勾配超遠心法を用いてマコガレイレオウイルス粒子の精製に成功した。


図2.ゲノムRNAおよびFLAC法による全セグメントRT-PCR増幅産物の電気泳動像

 精製したウイルス粒子からゲノムRNAを抽出した。高分子領域,中分子領域,低分子領域の各部ループに分かれてセグメント構造が確認された。FLAC法によって全11セグメント全長の増幅に成功した。


図3.マコガレイレオウイルスのゲノム構造

 決定したマコガレイレオウイルスのゲノム構造の比較および各遺伝子のホモロジー解析から,本ウイルスはゲノム情報が知られている既知のアクアレオウイルスとは異なるグループのアクアレオウイルスであることが明らかとなった。


図4.マコガレイレオウイルス病のRT-PCR診断

 得られたゲノムRNAの塩基配列情報をもとにRT-PCRプライマーを設計し,感染が疑われるマコガレイ稚魚から抽出したRNAを鋳型にRT-PCRを行った。その結果目的PCR産物が得られ,本疾病のRT-PCRによる迅速診断法の開発に成功した。





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