合成ホルモンを用いたマナマコの新しい産卵誘発法
 マナマコの放卵、放精を誘発するペプチドホルモン(クビフリンと命名)の同定に成功した。化学合成したクビフリンを成熟したマナマコに投与するとおよそ1時間後に雄では放精、雌では放卵が始まった。また一部のアミノ酸を改変することで、天然型よりも10-100倍強い作用をもつスーパーホルモンも得られた。あわせて雌雄や成熟度の判定法を開発した。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産技術部 繁殖研究グループ 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産増養殖部会 専門 魚介類繁殖 研究対象 なまこ 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
 現在、マナマコの採卵では昇温刺激による産卵誘発が行われているが、誘発成功率は必ずしも高くない。また、マナマコは外観から雌雄や成熟度が分からないため、産卵誘発に多数の個体を用いざるを得ない状況にある。この研究課題では、マナマコの成熟、産卵に関連する生理活性物質を同定し、これを用いた効率的な採卵手法を開発することに取り組んだ。
[成果の内容・特徴]
 マナマコの神経抽出物から、培養条件下の卵巣に作用して卵成熟を誘起する生理活性物質を精製した(図1)。次いで精製物の化学構造を決定した結果、C末端がアミド化した5残基のペプチドであることが判明した。化学合成したペプチドを用いて、培養条件下での作用を確認した結果、卵径およそ150マイクロメーター以上の卵に作用して卵成熟を誘起した。また成熟したマナマコの体腔内に注射によって投与したところ、およそ1時間後に放卵、放精が始まった(図2,3)。以上の結果から、マナマコの産卵行動にちなんでこのペプチドをクビフリンと命名した。

 クビフリンの3番目のアミノ酸をイソロイシンからロイシンに置換すると、10-100倍少ない投与量でも産卵が誘発された。また、マナマコの体壁を1-2cm切開し、ごく少量の生殖腺を取り出すことで雌雄の判別が可能となった。このとき取り出した卵巣片をクビフリンとともに培養して卵成熟誘起の有無を見ることで、産卵可能な雌であるかを判別できることを明らかにした。
[成果の活用面・留意点]
・部分切開法を用いて生殖腺を部分的に採取することでマナマコの雌雄を判別できる。

・卵巣片をクビフリンとともに培養することで産卵可能な雌であるか否かの判定ができる。

・成熟した雌雄マナマコにはクビフリンを投与することで放卵、放精を誘発できる。

・クビフリンは未熟個体には作用しないので、成熟誘導法の開発が必要。
[その他]
研究課題名:水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの生理作用解析

研究期間:平成18-22年度

予算区分:委託プロ

研究担当者:山野恵祐(養殖研究所生産技術部)

発表論文等:S. Kato et al. (2009) Neuronal peptides induce oocyte maturation and gamete spawning of sea cucumber, Apostichopus japonicus. Dev. Biol. 326 169-176.

吉国他、マナマコの放卵・放精誘起剤、およびそれを用いたナマコの生産方法、特願2008-216517
[具体的データ]




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