フグゲノム情報を利用した魚類レプチンの同定
レプチンは,脂肪細胞で作られるホルモンの1種で,ほ乳類の肥満に関する研究から食欲の制御機構において中心的な役割を果たしていることが明らかにされつつある。これまでレプチンは,ほ乳類からしか同定されていなかったが,今回我々は,ヒトのレプチン遺伝子周辺のゲノム上のシンテニーとフグゲノム情報を利用することにより、世界で初めて非哺乳類のレプチンの同定に成功した。
担当者名 独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所 生産技術部 繁殖研究G 連絡先 Tel.0599-66-1830
推進会議名 水産養殖部会 専門 魚介藻生理 研究対象 ふぐ 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 2(2)栄養生理及び生体機能の解明
[背景・ねらい]
ほ乳類においては、肥満という社会的関心の高さから、食欲制御の分子機構に関して研究が進んでいるが、魚類における研究は乏しい。

 ほ乳類では、食欲中枢は脳の視床下部にあり、食欲の制御には促進的に働くNPYニューロンと抑制的に働くα-MSHニューロンが中心的な役割を持つ(図1)。さらに、胃から分泌されるグレリンや、脂肪細胞から分泌されるレプチンといったホルモンが、体の空腹状態やエネルギーの蓄積状態を神経系に伝える因子として機能している。

グレリンは魚類からも同定されているが、レプチンはほ乳類からしか同定されていなかった。レプチンは、エネルギーの貯蔵器官である脂肪の蓄積状態と食欲を結びつけるきわめて重要な因子であることから、我々は魚類レプチンの探索を行ってきた。
[成果の内容・特徴]
 今回、ヒトのレプチン遺伝子周辺のゲノム上のシンテニーとフグゲノム情報を利用することにより、世界で初めて非哺乳類のレプチンの同定に成功した。

 ヒトのレプチンは,7番染色体のq31という領域にマップされている。レプチン遺伝子そのものは,相同性検索ではフグゲノム上に見いだすことはできなかったが,レプチンの周辺存在する遺伝子をフグゲノム上で探索したところ,保存性の高い領域が2カ所見いだされた。そのうちの一方から構造的にヒトレプチンと相同性のみられる遺伝子が同定された(図2)。フグ科魚類は明瞭な脂肪組織を持たず,脂肪の大部分を肝臓に蓄積している。今回得られた遺伝子は,フグの肝臓で特異的に発現していたことから,やはり脂肪細胞と関連していると推察された。
[成果の活用面・留意点]
 マダイやヒラメなど一部の魚種では選抜育種により高成長群などが作出されつつあり、このような高成長群では無選抜群よりも摂餌量が多い事が知られている。

 今後、魚類におけるレプチンなどの機能解明を通じて食欲の制御機構を明らかにすることにより、メカニズムに基づいた育種や、養殖魚の脂肪蓄積などの肉質改善にもつながることが期待される。
[その他]
研究課題名:魚類の食欲と発育を制御する分子機構の解明

研究期間:H16-19

予算区分:交付金プロ研バイオデザイン

研究担当者:黒川忠英・宇治 督

発表論文等:Identification of cDNA codong for a homologue to mammalian leptin from pufferfish, Takifugu rubripes. Kurokawa et al. (2005) Peptide, 26, 745-750.
[具体的データ]

食欲制御

図1.食欲の制御機構に関するモデル


characterization

図2.フグとヒトのレプチンの比較 (A)レプチン遺伝子周辺のシンテニー (B)3次元立体構造の比較







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