海藻由来有機物の藻場周辺生態系への貢献


[要約] 炭素安定同位体比を指標として、五ヶ所湾の藻場とその周辺生態系を解析した結果、海藻は葉上動物に直接摂餌されるのみならず、デトライタス化してベントス等の餌となり、魚介類資源を支える有機物源となっていることが示唆された。

養殖研究所・飼育環境技術部・飼育技術研究室

[連絡先]0599-66-1830

[推進会議]漁場環境保全

[専門]生物生産

[対象]藻類

[分類]行政


[背景・ねらい]

 多様な生物の生息する藻場とその周辺生態系では、複雑な食物網が構築されており、海藻が生産した有機物がどのような経路で高次生産者へ転送されているのかを把握することがこれまで困難であった。本調査では、1998年〜2001年の各年春季(3月〜5月)に五ヶ所湾の藻場とその周辺部において、炭素安定同位体比(δ13C)を指標に用いて海藻由来の有機物のフローを解析し、有機物の供給という観点から藻場の機能を評価した。

[成果の内容・特徴]

・海藻(ホンダワラ類等) 、懸濁物(植物プランクトン)および沈降物(デトライタス)のδ13C値は各々、-24.1〜-7.6‰(中央値:-15.1‰)、-22.0‰〜-19.2‰(中央値:-20.6‰)、および-20.9〜-14.6‰(中央値:-19.6‰)を示した(図1下)。これら3者のうち沈降物のδ13C値は、他2者のレンジにまたがり、また藻場に近い地点ほど高かったことから、沈降物に含まれる有機物は海藻と植物プランクトンが混合したものとみなされた。

・端脚類等の葉上動物のδ13C値は-17.3〜-8.7‰(中央値:-13.0‰)を示し、海藻由来の有機物に強く依存していることが明らかとなった(図1中)。また多毛類等のマクロベントスのδ13C値は-20.8〜-14.4‰(中央値:-16.6‰)を示し、沈降物を餌とすることによって海藻由来の有機物も利用していることが示された(図1中)。

・軟体動物、棘皮動物等の藻場動物のδ13C値は-24.0〜-10.1‰(中央値:-13.7‰)を示し、葉上動物同様、海藻由来の有機物に強く依存していることが明らかとなった(図1上)。また魚類のδ13C値も-19.3〜-12.7‰(中央値:-14.8‰)を示したことから、葉上動物やマクロベントスなどを餌として、間接的に海藻由来の有機物に依存しているといえる(図1上)。

・これらのことから、海藻は葉上動物等に直接摂餌されるのみならず、デトライタス化して藻場周辺のマクロベントス等の餌となり、魚介類生産の基盤となる有機物源(一次生産者)として重要な役割を果たしていることが示唆された。

[成果の活用面・留意点]

 藻場は、有用魚介類の生育場としてのみならず、内湾・沿岸域における水産動物への有機物の供給源としても貢献しているため、藻場造成事業による新たな効果が期待できる。

 但し、藻場起源有機物の魚介類への寄与を正確に評価するためには、摂餌による炭素安定同位体の濃縮係数を飼育実験等により算出する必要がある。

[具体的データ]

図1 五ヶ所湾の藻場とその周辺生態系における有機物源の解析


[その他]

研究課題名:炭素・窒素安定同位体比を指標とした藻場造成効果の算定手法の開発(水産基盤整備調査:水産庁)

予算区分:水産基盤整備事業

研究期間:平成13年度(平成12年度〜平成14年度)

研究担当者:石樋由香、横山寿

発表論文等:Distribution of stable carbon isotope ratio in Sargassum plants. Fisheries Science. 67. 367-369. 2001.

        五ヶ所湾産ホンダワラ類藻体内の炭素安定同位体分布、藻類、49巻1号、2001。